236 / 260
223 金の魔力の作り方
しおりを挟むーーーー来るか?
どんな?と言われても説明はできない。だが、僅かにアイツの気配。思っていたよりも早い。さぁ、どんなやっかいごとだ?
明け方にやっと微睡んだディックが気怠そうに体制を変えると、思った通り大きな魔力が飛び込んできて爆発をした。
ーーーーガガガッ! ドッカーーン!!
「きゃぁ!」
「……クッ」
真っ白な光にツルンとしたスライムの肌触り。周囲に飛び散る魔石が天蓋ごとベッドを吹き飛ばし、飛ばされた破片でドアや窓がバキバキに砕けた。瞬時に反応したサーシャは布団を被り何を逃れたが、飛び込んできた幼子を抱きしめたディックは身体中に切り傷を負った。
「お、おい。ちっとは加減し……!?」
それでも、嬉しそうに口角を上げたディックは、後ろ手に縛られ、猿轡をかまされた幼子の姿に慌てた。あまりの慌てぶりに拘束を解くどころか、破いたシーツでぐるぐるに自身もくるまってしまう始末。
「どうした? お、親父?! コ、コウターー?」
「えっ? コ、コウちゃん!」
父親を足蹴りし、破られた布団と羽毛からコウタを掘り出したアイファが自慢の馬鹿力でフンッと拘束を解くと、真っ青な顔をした愛しい弟が漆黒の瞳からぼたぼたと涙を流してすがりついてきた。
「ご、ごめなさい。ごめなさい。 オ、オレ、ごめさいだけど、た、助けてく……だ、さ、い。た、助、けて。マリン、さん、と、子ども、子ども。お願い! ごめさいだけど、お願い!」
息も絶え絶えに呟くと、くらりと背をそらせて気を失った。スライムのプルも、潤んだ透明の柔らかい肌に干涸らびたような白筋を幾つか浮き上がらせ、コウタと共に弾んだかと思うと、身体を預けて動かなくなった。
爆音を聞いて駆けつけてきた家族は、想定外の深刻な事態に顔を見合わせた。そしてマメを呼び出そうとしたが、出てきたのはガタガタと震えるスカだった。
■■■■
はっ! オレ、オレ寝ちゃってった!
不味い! その感覚だけで身体を起こすと、視線の先には大好きな人達が集まって深刻な表情で話し合っている。再び会えた喜びと、自分勝手に出て行った申し訳なさ、そして、きっと今、自分のために動こうとしてくれる気持ちに涙が溢れてきた。
「おっ、目覚めたか。案外早かったな。まずこれを飲め」
分厚い大きな手の平で支えられ、うずきながら小瓶の液体を飲む。甘い、酸っぱい、辛い、苦い。決して美味しくは無いけれど、じんわりと身体に染み渡り光を帯びた様な気がした。
「よかった。痛くはない? 大丈夫? 寝ていた時間は十分程度よ。きっとまだ大丈夫」
サーシャ様に抱き上げられて、思ったよりも時間が経過していなくてホッとした。だけど、一刻の猶予も無い。オレがいなくなったことが犯人達に見つかったらと思うと、いても立ってもいられない。力が入らない手足を精一杯にバタつかせて、事態を説明しようと口を動かすけれど、もつれてもつれて、上手く話せない。
「レイリッチ。頼めるか?」
「………。」
オレの顔をちらりと眺めたレイが、オレと似たような服装で立っていた。そして、レイの髪が炭をかぶったように黒光りを帯びている。
「猶予がないのは承知。だが、お前にはきちんと説明がしたい。しばらくレイがお前の代わりを務める。だが……」
何を言っているのか? オレのピンチが伝わったのか伝わっていないのか、分からない。ただそこにいるレイがオレの代わりを務めようとしている。オレの? 掴まったオレの代わり?
「だ、駄目! 危険だよ! オレの代わりなんか駄目だ」
するとレイが厳しい顔をしてオレに食ってかかる。
「俺はお前の下僕だ。主人の代わりに行くのは当然だろう? そんなに嫌なら、なぜ下僕にした! お前が勝手に、俺の気も知らずに売ったんだ。嫌でも行かせてもらうからな!」
「う、売るなんて……。そんな、そんなつもりじゃ」
うろたえたところで、キールさんがストップをかけた。
「今は争っている時間は無い。そうだろう? コウタ。 俺達が知りたいのは、プルが何回、転移できるかってことだ。連絡ひとつ取るにしたって遠すぎる。プルの体調も悪そうだ。慎重に確実に教えてくれ」
プルちゃんの体調が悪い?
言われて気づいた。さっきオレと一緒に全力で魔力を込めたからだ。全力の魔力で魔石を壊してここに来た。じゃぁ、プルちゃんは魔力切れ?
スライムの魔力なんて考えたことが無かった。だけど確かに転移は大きな魔力が動く。今までは回数なんて考えたことは無かったけれど、オレの腕の中で弱々しくプルルンとしているプルちゃんは、いつもより透明感が無くて、白く硬い筋がひび割れのように蔓延っている。
「プルちゃん! 待ってて! 回復す……」
「駄目だ!」
伸ばした両手を持ち上げたのはクライス兄さんで、その目には怒りの炎が宿っていた。さっき飲んだのは魔力回復薬。ナンブルタルで回復薬を飲んだオレが酷く痛がっていたのを思い出し、飲ませようかどうか随分迷ったらしい。でも、例え痛がったとしても魔力が底をついた状態よりはいいだろうとの判断だった。そんな状況のオレが魔力を使うことを反対しての行動。でも、でも、それじゃぁ、今のプルちゃんでは転移は無理だ。
『プ、プル、プルル……』
プルちゃんは健気にソラやマリンさん達のために頑張るって言ってくれたけれど、こんな状態のプルちゃんでは、もしかして消えてしまうんじゃないかと不安になる。すると、ディック様達が囲んでいた机の中心から生き生きとしたスカが飛び出してきて教えてくれた。
「主! プルは俺様と一緒だぜ。主の金の魔力さえあればいくらでも元気になるし、何度だって転移が出来る。そうだろう?」
『プ、プルンル!』
きらん、と一瞬だけ。オレにすり寄ったプルちゃんが水色の身体を光らせた。
「だ、駄目よ! コウちゃんだって魔力切れなの! そんなコウちゃんの魔力をあげるなんて無理よ! あなた! 作戦は変更! こうなったらワイバーンのブレスで辺り一帯を焼いてしまえば解決よ」
うろたえたサーシャ様がとんでもないことを言い出した。焼いちゃえばって……。それじゃ、誰も助からない。でも、でも、オレを、こんなオレをまだ大事にしてくれるんだ。サーシャ様の深い愛情を感じてオレの身体がじゅわわと温かくなった。
うん。オレは知っている。金の魔力を満ちあふれさせる方法を。オレの魔力漏れが無くならないのも、オレがいつもやらかしちゃうのも、オレがオレらしくいられる場所があるから。
オレはサーシャ様にぎゅっと抱きついて、みんなの方を振り返った。そして、そして。溢れる涙をそのままに思い切り笑った。
「金の魔力ならすぐに溜まるよ。ねぇ、サーシャ様。ちょっとだけ、恥ずかしいけど、許して貰える?」
「えっ? あの、ええ。 コウちゃんの恥ずかしいこと? ええ、いいわ! ちょっとだけなんて言わなくて、うんとうんと、甘えていいのよ」
みんなの前でするのは凄く恥ずかしいけれど、サーシャ様のお胸の谷間にオレはちょっとだけ手を入れて顔を埋めた。母様と一緒。甘くて柔らかくて、心臓の鼓動が感じられて安心する。ほら、恥ずかしいけれど金の魔力、溢れてきたでしょう?
「クラ兄! アレやって! いつもの」
そう言って万歳をすると、クライス兄さんは意を汲んでオレを持ち上げた。オレのお腹に顔を埋めてすうはぁすると、うふふ、くすぐったいよ。オレは身体をよじってきゃぁと笑う。
ーーーーふわふわ きらららら
「「「「 お、おお……。す、すげーな 」」」」
みんなにも見えるのかな? 周囲に広がる魔力にディック様達が目を見開いた。
次はアイファ兄さんに飛びつく。アイファ兄さんは長い手足を使ってオレを捕まえようとするけれど、オレは簡単には掴まらない。走って、飛んで、抱きついて! ほら、ほら、アイ兄の身体鬼ごっこは全身でぶつかれるから楽しい! ぎゅっと抱きついて、ぺたりと頬をくっつけて。
ーーーーふわふわ、きららららら
『プキー、プルルルン、プル~! 』
溢れ出た魔力でほら、プルちゃんがつやつやに光り出した。もっともっとオレの魔力を浴びていいよ。たっくさんたっくさん食べていいよ。だって、オレ、こんなに嬉しい。涙と同じくらい、嬉しいと安心と大好きが溢れているから!
キールさんもニコルも、タイトさんもイチマツさんも、サンもミユカも。
みんな、みんなと抱っこして、頬をくっつけてきゃっきゃっと笑えば、ほら、執務室なんか簡単にきらきらで溢れちゃう。
「コウタ、俺には、その、俺んとこには来んのか?」
しびれを切らしたディック様が、太い指をくねくねと折り曲げて、オレが抱きついてくるのを待ち構えている。行くよ、もちろん。だって、だって、そこが一番行きたい場所だから。
「ディ、ディック様。ごめさい。ごめさい。オレ、ディック様、ううん、父上が好きなの。やっぱり、やっぱり父上が、父上のところがいいの。子どもで無くてもいいから、オレのこと嫌いでもいいから……。ごめさい、ごめさい。オレ、帰ってきてもいいですか?」
「お、お前って奴は。まだまだガキだなぁ。大事なことを言おうとすると言葉が抜ける。だがな、オレがお前を嫌いになることなんかない。半身なんだよ。お前は。言っただろう。お前は俺ん子だって。アイファとクライスとコウタ。誰がどんな邪魔をしたって、たとえ誰かが悪魔になったって、俺の子だ。愛しい。大事なんだよ」
伸ばされた手に、思い切り身体を預けた。ほら、痛いくらい抱きしめられても、その手は温かで優しくて絶対の安心感。泣いて泣いて泣いて。おひげがチクチクして、くせっ毛が涙でくっついて、漢っぽい臭いに鼻がつんとなるけれど。嬉しくて嬉しくて、幸せで安心する。
ほら、ほら!
プルちゃん、いっぱいいっぱい取り込んで!
オレの金の魔力を。
オレの幸せの証を。
お腹いっぱい食べていいよ!
いつもどおりに、ううん、いつもよりピッカピカの透明な水色に艶めいたプルちゃんは、レイを飲み込んでシュンと転移した。そして、間もなく嬉しそうに弾みながらオレの手の中に戻ってきたんだ。
21
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界生活物語
花屋の息子
ファンタジー
目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。
そんな魔法だけでどうにかなるのか???
地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
異世界で双子の勇者の保護者になりました
ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】
就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。
ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。
異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。
だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!!
とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。
はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!?
ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カクヨムとノベリズムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる