209 / 260
196 テンプレ?
しおりを挟む「お前、昨日、熱を出したんだぞ? ほどほどに帰ってこいよ」
王様から冒険者プレートを貰ったオレは、アイファ兄さんとギルドに向かう。サーシャ様とメイドさんたちが大急ぎでかっこいい(と言えって言われた)冒険者服を準備してくれて、いたる所にレースやリボンのひらひらがついているけれど。朝食の残りを慌てて包んでくれたディーナーさん。さすが、わかってくれているね! 見送るディック様に手を振って、今日は様子見だけだとにんまり笑った。
ガラガラと馬車で道を下っている。あれ? 冒険者って、ギルドまで馬車で行く? しまった! 間違えてるよ! だって絵本の中の冒険者は、安い宿から歩いて行くんだよ。 歩きでなくたって、せめて馬だよね? 慌てて馬車を降りようとすると、引き留めたアイファ兄さんがニヤリと嬉しそうだ。
「兄さんはついてこなくていいのに……」
プルちゃんを抱きしめて、ぽつり呟く。キヒヒと笑いながら、ちゃんとできるかどうか見るだけにすると約束してくれた。わくわくする気持ちをぎゅっと押し殺して、舐められないように表情をキリッと引き締める。心配そうな御者さんに元気よく手を振って、ギルドから少し離れた場所で馬車を降りた。
早朝とはいえない時間のギルドは、やっぱり閑散としていて、オレはとてとてと階段を上っていく。うふふ、前に兄さん達が依頼を受けるのを見ていたから、ちゃんとわかるよ!
壁いっぱいに張られた依頼。オレ一人で受けられるのは、FランクかEランクの町中依頼だけだから、まずはその二つのランクを探すんだ。だけど、高い場所に貼られているのはよく見えない。仕方がないからぴょんぴょん跳ぶけど、邪魔だって冒険者さんに言われてしまった。
■■■■
「くくく、面白れー! あいつ、どんなテンプレを引っ張ってくるのやら」
ギルドの入り口で「ついてこないで」と言われた俺は、扉を背にして中の様子を探る。あんなちっこいガキが一人でギルドに乗り込むんだ。目立つことこの上ない。人が少ない時間とはいえ、まずは邪魔にされるだろうよ。ふざけんなってキレる奴もいるか? 冒険者プレートを見せびらかせば、Hランクだと笑われるのがおち。ちょっと実力を見せてみろって絡まれるのがテンプレってやつだ。
パンチの一発二発くらいは、まぁ、許したくはねーが、覚悟しとかないとな。
とってくる依頼は薬草取りか? お使いか? 荷物運びなんかは難しいってわかるだろうけど。さあて、どんな騒ぎがおきるかなぁ? 兄ちゃーーんって助けを求めに来るか? ガキが一人で依頼を受けるなんざ百年早いって気づきゃいい。
そんな初心冒険者あるあるを期待していた俺だが、扉の中は意外と静かだ。まさか、あいつ? なんかやらかしてんじゃないだろうな? 不安になって、こそと扉の中に入る。
「うおっ?」
すぐにぶつかった小さい奴。間違いなくコウタだ。コウタだけれど………、何が起こった?
「あっ、アイファ兄はん、あの、そろぅ、うえつけろ ほれえはんは ほんれるんられろ」
蚊が鳴くような小さな声。伏し目がちな目に、俺は、俺は………。吹き出さずにはいられない。
「なっ………? 何があったらそうなるんだ?」
腹を抱えて周囲を見回すと、きゃぴきゃぴと盛り上がる女冒険者に、ひっくり返った厳つい男、介抱する青年冒険者。呑気な和みムードと、ピリピリとした緊張感と………。そして、変わり果てたコウタの姿。
ピンクのリボンで漆黒の髪を結び、エプロンのような腰巻き。ひらひらのフリルやレースの間には花が飾られ、両手いっぱいの串焼き。もごもごとしているその口いっぱいにも、甘いかぐわしい物が押し込まれている。
俺は慌てて手を上げている受付にかかった。思っていたテンプレとは全く違うけれど、さすがコウタだ。早速やらかしたのだと焦って事情を聞く。
「悪ぃ、弟だ。何をしでかした?」
受付嬢は若いが手慣れたいつもの彼女。ほっとしたように微笑んで「いいえ、なにも」とつれなく言った。
「砦のリーダー、アイファ様でよろしかったですね。ご無事で何よりです」
いつものように淡々と早口で巻くしたてる。何があったのか、カウンターに乗り出してコウタを見ると受付嬢がチェーリッシュの籠を取り出して説明をした。チェーリッシュは実際のところは収穫時期を終えている。だが、自然の植物であるために依頼達成までの期間が長く設けてられていて、締切日までは数日猶予があったようだ。例の事件によって依頼は未達成となる予定だったが、たった今、コウタが籠いっぱいのチェーリッシュの実を提出したことで依頼完了。報酬を支払いたいとのことだった。
「それにしても、傷みやすい実です。こんな完熟なのに傷がなく、素晴らしい状態。さすがAランクです。どうやって手に入れたんですか?」
「オレの空間収・・・・・ふがっふがっ」
全く。やらかすのは今だったらしい。俺はコウタの口は塞いで、自身の口をもごもごと濁した。冒険者の仔細については秘匿事項も多い。指を一本、唇の前に差し出せば、ベテラン受付嬢はすぐに意を汲んでくれた。
「はい、では、依頼完了です。あっ、そうそう、弟さんでしたっけ。今朝の通達で承っていたので、問題なく依頼を受けられるのですが………、確認されます? 規約的には大丈夫なんですけど、一応、一般的な意見とか、ご家族の意見とかも聞かれたらどうかな?………とアドバイスをさせていただきまして」
「そうなのか? なら、頼む。一応初依頼だからな。失敗しないものがいいと思うし………」
キャピキャピのお姉さん冒険者に囲まれて、目を白黒させて串焼きを食べる奴。うん、まぁ、そう。そんなテンプレもあるけれども………。大きなやらかしでなくてよかったと胸をなで下ろしながら、コウタが選んだ依頼に目を通す。選んだ依頼は二つ。どちらかにするそうだが……。
Fランク依頼 子供の世話 3時間程度
報酬 銀貨1枚
子守り
(五歳児をはじめとする三兄弟)
Fランク依頼 教会での読み聞かせ 1時間程度
報酬 銅貨5枚
集めた子供達に絵本を読む
時間があれば文字を教える
「なっ? これ、アイツでいいのか? アイツ、まだ四つだぜ?」
「規定のランクはいいのですが・・・。やっぱり、どう考えても無理がありますよねぇ」
コウタの方をチラチラと見た受付嬢は、明らかに困惑していて………。まぁ、俺が呼ばれた意味を理解した……。
ふう。4歳の壁だ。 大きくため息をついた俺は、近くの壁にあった薬草取りの依頼を引っ剥がす。
「指導冒険者 Aランクなら文句ねぇよな?」
「はい! もちろんです」
俺はテンプレなる出来事を諦めて、コウタの首根っこを掴み、ギルドを後にした。おかしなコウタの格好や両手に溢れる食いもんのことも聞きてーし。まぁ、今日はコウタちゃんと門周辺で久々の薬草取りに励むことにする。
22
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜
和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。
与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。
だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。
地道に進む予定です。
異世界で双子の勇者の保護者になりました
ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】
就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。
ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。
異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。
だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!!
とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。
はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!?
ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カクヨムとノベリズムにも投稿しています
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
異世界生活物語
花屋の息子
ファンタジー
目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。
そんな魔法だけでどうにかなるのか???
地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる