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閑話4 名もなき手下

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「なろう」様でブックマークが増えた記念に投稿した閑話です。アルファポリス様でもたくさんの方に読んでいただいて幸せです。

*「なろう」様の投稿に追いついてきましたので、本日から毎日1話ずつ投稿とさせていただきます。
 次は明日の午前6時頃更新いたします。よろしくお願いします。(「なろう」様は奇数日投稿ですので、少しずつ追いつきます)
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 ーーーーシュタ。



 足音も吐息でさえも完璧に消した気配。接触のチャンスは一度きり。しかも絶妙に機会を合わせなければ会ってさえもらえない。ましてや空気が読めずしくじれば、命を失うことは必死。



 基本は単独。

 働くも休むも自由だ。高価な取引で頭かしらを売ることもできるが、そんなチンケなことをするならここには居ない。もっと優遇されるべき場所はいくらでもある。



 ではなぜここに居るのか?



 例えばよく切れる刃物。その切れ味を確信しつつ、つい指を当ててしまうそんな好奇心。



 例えば安いエール。まずいのもぬるいのもわかりきっている。だが上品な酒を飲むほどに欲してしまう。くだらなく、ただ水のように飲みこぼすくせに二日酔いになる。では次からは上質な酒に、とはならない代物。



 例えば強い魔物。食うか喰われるか、殺やるか殺やられるか。まともにやり合って無事でいる保証もない。だが、全力を持って挑み勝利した暁の達成感。例え腕が折れようとも、仕留めきった事実に興奮が止まらない。





 そう。ただそのお眼鏡に叶うかどうか。それだけが俺らの存在意義であり、ここに集う意味である。



 どうせ幾度と捨てた命なのだから、捨て駒にされることこそ本望であると。



 首頭の側近として暗躍していた頭かしらが保護されたのは随分前だ。雑魚らもすぐさま捕えられたが、すり抜けた奴は途方にくれた。

 堅気になったからと言って幼き日から身についた習性は変えられねぇ。だからと言って自暴自棄に暴れれば憲兵の格好の手柄にされる。

 



 闇の仕事にゃ闇のルール。光と闇を器用に使い分ける元側近についていけば、極上の刺激、命のやりとりに事欠かない。何しろ奴・ら・は欲求のまま突き進む。



 無力な一般人を相手にしたってつまらねぇ。標的を変えるだけでこうもスリルが違うとは。



 理屈の通らぬ魔物の巣窟を走り抜け、名のある盗賊を壊滅させる。胡散臭い奴らの弱みを握り、失脚させたり口を封じたり。

 最強の冒険者を目指す輩の手足となるのも悪くない。



 世界に散らばった同胞もおそらく皆同じ。捨て駒を使いつつ頭かしらの役に立とうとその気配を探っている。



 今日は南の村にいる。明日は東に停滞し、時に新月のように姿を隠し、時に従魔に司令を持たせる。



 



 俺がト・リ・を見つけたのは必然だ。



 空を舞う奴らに過敏なのは俺達の性。数年ぶりの司令であっても見逃すわけにはいかない。



 俺の鼓動は高まった。

 腕は鈍っちゃいない。手駒も十分。あとはお眼鏡に叶う成果か出せるかどうかだ。



 あの手この手で司令を探るが、手掛かりのカケラも見つからない。



 戦いくさ、反乱、クーデター。内輪揉めから怨恨まで、ありとあらゆる戦闘を探ったが頭の真意に辿り着けない。俺にしては珍しく海外の動向も探ったが、手に入れたものは千年前の壊れた石笛。



 だが、無いよりはいい。ただ一目会う口実になりさえすれば。ただ頭かしらの記憶にさえ残ればしめた物だ。







「止めておけ」

 突然引っ張られた腕に不快感を表す。



 俺たちは互いに干渉しない。だが同じ目的のために動くことも多く、馴染みの姿はそれぞれに知る。こいつはその中の1人。



「成果がありゃいいさ。だが、半端なら……。悪いことは言わねぇ」



 俺は思惑を探る。罠か? ご機嫌取りか?



「王・子・様・に異変だ。顔出しゃ成果があっても命はねぇ」



「王・子・だ?」

 怪訝な目で返すと、奴はニヤリと笑い、忠告はしたと視界から消えた。俺が後を追っている間に取り巻く状況が変わったのだろうか?



 だが、俺は名もなき手下。名前も出自も、いや、本当の顔すら知られているかどうか、それすらも怪しい存在だ。忠告に従う義理はねぇ。



 俺は気配を殺し、そっと近づく。

 目当ての者は強者達が住まう館にいた。例え息を止めたとしても容易に捕まるだろう俺が絶対に敵わない輩達の気配。村に近づくだけで冷や汗が出る。だがそれは望むところだ。こうでなくては……。



 機会は最悪だった。何やら慌ただしく子供らを抱き、家らしき場所に送っているところの様子。すれ違った瞬間、後悔した。忠告に従えばよかったと。



 ほんの一息、ほんの一瞬。



 目があった瞬間、全身が凍りつき、潜めた呼吸が震えた。

「雑魚め!」



 小さく動かした唇が確かにそう言った。機嫌が悪い。とにかく憂さ晴らししたい。そう告げた。これは八つ当たりの相手を探している!



 そう、俺は見つかってしまったのだ。逃げることもできるが、見えない力に引っ張られるように、奴の前に立たされるのだろう。



 持ってきたちっぽけな成果に満足させられる訳もなく、だが、八つ当たりの矛先になれるのなら、かえって光栄なことかもしれないとふふと笑う。





 深夜の村外れ。

 俺はボロボロのサンドバックの代わりとなって転がされていた。だが、有難いことに生きている。しばらく転がっていれば手足も動くようになるだろう。



 明日からはまた忙しくなる。新たな任務をもらったのだ。



 『偶然か必然かを探れ』



 彼人の王子様が誘拐に巻き込まれたとのこと。その調査だ。途方もなく手がかりが少ない前回の調査と違い、首頭らしき男が斬首されているのだから随分容易い仕事だろう。



 次こそは、オレンジの瞳を細めてもらいたいものだと唇を引いた。



 そう、赤毛の狼ニコル様に。

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