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カケラ・その46
しおりを挟む医者へ報告に来た看護師が俺を見て、
「お友達の方かしら?五十嵐さんは、これから色々と検査をしなくちゃいけないから、出来れば待合室で待っていて貰える?」
と俺に話しかけてくれた。
葵の事は気になるが、俺が此処に居ては邪魔になるだけかもしれないと思い、俺はその提案に頷く。
俺が待合室で待っていると、
「すみません!五十嵐です!」
と慌てた様子の中年女性が駆け込んで来た。
彼女は額の汗を拭う事もせず、受付の女性にそう言っている。
女性の面差しはどことなく葵に似ている気がした。
「五十嵐さんですね。今、娘さんは検査中ですが担当医はお話が出来るそうです。直ぐに五階に上がられて、後はナースステーションで声を掛けてください」
受付でそう言われて、彼女は初めてハンカチでその額の汗を拭った。……彼女はきっと葵の母親なのだろうと俺は予想する。
ジッと見つめていた俺の視線を感じたのか、葵の母親と思われる女性はふと俺の方へと振り向いた。
思わず目が合う。すると女性は軽く俺に会釈をすると、エレベーターの方へと早足で歩いて行った。俺はそれを黙って見送る。
それから二時間程が経っただろうか、俺のいじっていたスマホの画面に暗い影が落ちる。
「葵のお友達って聞いたんだけど」
そう声が掛かり、俺は顔を上げた。
そこには、葵の母親と思われた女性が、座っている俺の目線に合わせる様に、腰を屈めて俺を見ていた。
「あ、は、はい!」
俺は慌てて立ち上がりながら、スマホをズボンのポケットにねじ込んだ。
「看護師さんに、貴方が葵のお見舞いに来ていて、葵が目覚めたのを教えてくれたと聞いたの」
「あ……まぁ、はい。一応」
『一応』って何だよ、『一応』って。見知らぬ大人と喋るのは案外緊張する。俺は喉が渇いてきた。
「ありがとう。もう小学校や中学校のお友達の中でも、双葉ちゃんぐらいしか、お見舞いに来て居ないと思っていたの。直接本人と話せる訳でもないから、当然と言えば当然なんだけど。
……あぁ、変な話をしてごめんなさいね。何だか葵を忘れないでいてくれたお友達が他にも居たのが嬉しくて」
と葵のお母さんは微笑んだ。
「あの……葵……さんの様子は?」
「色々と検査は終わったわ。今のところどこにも異常は見られなかった。だけどどうして突然目覚めたのか……その理由も原因も分からないの。
本人も何故自分が病院に居るのかも理解出来ていなくて、少しパニックになってて。
お見舞いに来てくれた所、本当に申し訳ないのだけれど、今日はゆっくり休ませてあげたいから、また明日、会いに来てやってくれるかしら?」
明日……。俺がこの田舎を去るのは明後日の予定だ。俺にも明日しか時間は残されていない。
「分かりました。また明日来ます」
と俺が答えると、葵のお母さんは申し訳なさそうに、
「ずっと待たせてしまったのにごめんなさい」
ともう一度謝ってくれた。
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