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カケラ・その38
しおりを挟む「希、少し話をしようか」
ばあちゃんは優しくそう言うと、俺と縁側に腰掛けた。
「希。人はいつか死ぬ。これは昔っから変わらない。その分悲しみも増える。それも仕方ない事だ。それを無理に乗り越える必要はないんだよ。その悲しみを抱えたままで良いんだ。悲しければ泣けばいい。辛ければ辛いと言えばいい。我慢する必要なんてどこにもない。
ばあちゃんだってじいちゃんが天国に行って悲しいし、寂しいさ。じいちゃんを忘れた事はないし、この家のそこかしこに思い出がある。でも、それで良いと思ってるんだ。じいちゃんだって忘れ去られるより、ずっと嬉しかろうて。希も覚えててやれば良いんだよ。誰かとの思い出を」
とばあちゃんは俺の頭を撫でた。
葵の事をばあちゃんに話した事はないのに、何故かばあちゃんには見透かされている様な感覚になる。
「一生……会えなくなるかもしれなくても?」
「折角知り合えたんだ。きっと縁があったんだよ。それにその人がこの世の何処かに居る限り、また会えるかもしれないじゃないか」
じいちゃんには二度と会えなくても……葵にはいつの日かまた会えるのだろうか?
俺は涙を堪えられなかった。
「うっ……ふっ……う」
涙を流す俺をいつまでもいつまでも、ばあちゃんは撫でてくれた。
「希、お皿洗ってくれたんね、ありがとう」
結局、俺は夕飯を食べた。折角の好物とばあちゃんの心遣いを無駄にしたくなくて。
夕飯の後、お風呂を洗ってくるよと言ったばあちゃんの代わりに洗い物をするのはいつもの事なんだけど、ばあちゃんは毎回こうしてありがとうを口にする。
「今、お風呂沸かしとるけんね。でもまぁ、ご飯が食べれて良かったよ」
とばあちゃんは笑う。心配かけたことを申し訳なく俺が思っていると、
「希は今、とっても体が丈夫になったけんども、赤ちゃんの頃は本当に体が弱くてねぇ。あんたはもちろん覚えとらんだろうけど、一度大きな病気をして入院した時なんかは、小さな体に管をたくさんつけられて、見るのも辛いぐらい可哀想でね……」
とばあちゃんは思い出す様に頷いた。
「え……?俺、体弱かったの?」
……そう言えばこの前、母親にこの町で会った時そう言われた事を思い出す。本当の話だったのか……。
「そうだよ。あの時は本当に代わってあげられるもんなら代わってあげたいと思ったもんだ。裕司も毎日仕事終わりに顔を見に来ては、そう言ってたよ。じいさんも本当に心配してねぇ。お百度参りして来るって言って夜中神社に行ったりしてたよ」
「俺……そんなに危なかったの?」
「今だから言えるけどねぇ。医者に急変するかもと言われた事もあったんだ。だけと、ある日突然急に回復してきてね。あんときは嬉しくて泣いたもんだよ」
「急に?」
「そうなんだよ。ああ、そう言えば、あの時じいさんが変な事言ってたねぇ。
希の病気が治ったのはもちろんお医者さんの努力や希の頑張りが実を結んだんだけど、じいさんは『人魚のお陰だ』って言っててねぇ」
俺は『人魚』という言葉を聞いてドキッとする。俺が初めて人魚の話を聞いたのはじいさんからだ。それは鮮明に覚えている。しかし、最近もまた人魚の話を聞いた……そう葵から。
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