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カケラ・その30
しおりを挟む次の日。
未練がましいと自分でも思いながらも、俺はまたあの入り江に向かった。
『昨日は都合が悪かっただけかもしれない。きっとそうだ』と思う俺Aと『フラれたくせに、みっともない。冷静に考えたらわかるだろう?』と思う俺Bが戦った結果、俺Aに従う事にした。
ああ!俺は未練がましいしみっともないよ。だけど好きなんだ葵が。
この気持ちをなかった事に出来ない俺は、重い足取りで、いつもの緩やかな坂を降りた。
………居ない。やっぱりそこに葵は居なかった。
俺はまた、ため息をつく。どうしよう……帰ろうか、そう思っていた時、ふとある物が目に入った。
葵が人魚を見たという岩場に青い紙切れの様な物が置いてあった。
風で飛ばされないように、わざわざその上に石を重しとして置いている所を見ると、誰かがそこにあえて置いたのは、間違いない。
俺はその岩場に足早に近づくと、足首まで海に浸かりながら、その青い紙を手に取った。
その紙切れに見えていた物は青い封筒だった。
もしかしたら葵からの手紙かもしれない……俺は逸る気持ちを抑えきれずに、少し乱暴に封筒を開けて中身を確認する。
そこには封筒と同じ青い便箋が入っていた。二つに折られた便箋を開くとそこには、
『みつけて』
と一行だけ書いてあった。宛名も自分の名前も何も書かれていない。ただそれだけ。
俺はもう一度封筒を確認する。何か入ってる。俺が封筒を逆さにして振ると、俺の手のひらにあの日、葵が見せてくれたオレンジ色のウロコが入っていた。俺はそのウロコを握り締める。
『みつけて』ってどういう事だ?
この手紙は間違いなく葵からのもの。宛名は無くても俺へのメッセージである事も間違いないだろう。
最初は『事件に巻き込まれたのか?』『もしや誘拐された?』などと思ったが、そんな時に、呑気にこんな所まで来て手紙を置いて行ったりはしないだろう。
……みつけて……何を?
もしかして、自分を見つけて欲しい……そういう事だろうか?
良く考えなくてもわかっていた事だが、俺は葵の事を何も知らない。
住んでいる場所も、通っている学校も、そして苗字さえも。
自分の事を多く語らなかった彼女。彼女に嫌われるのが怖くて、彼女の心の中に踏み込めなかった自分。
こんな事になるぐらいなら、ちゃんと彼女に向き合えば良かったと俺は今更ながら、後悔した。
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