人魚のカケラ

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
21 / 55

カケラ・その21

しおりを挟む

「そうだな……じいちゃんもすっごい元気だったのに、急に倒れて……そのまんま。脳出血……だったかな?」

「……幾つだったの?」

「うーん……多分まだ六十代だったんじゃないかな?」

「若いよね。まだ。今って人生百年時代って言うもんね」

「平均寿命って……今、どれくらいなんだろう?」

「え?どれくらいだろう?」
二人で頭を捻る。俺はスマホで直ぐに調べてみる。

「えっと……男性は八十一、女性は八十七だってさ」
俺がそう言うと、

「でも……それってあくまでも平均なんだよね……。それより早く亡くなる人も居て、それよりずっと長生きする人もいて……その平均が今言った数字だとしたら、あんまり意味はないね」

「だな。っていうか……残された人にもそんな数字、全然意味ないよな。大切な人が居なくなったとして……平均と比べて『早い』とか『遅い』とか関係なくて……いつでも悲しいだろ?」

葵は父親を亡くしてる。物心ついた時には母親と二人暮らしだったかもしれないけど……それでも悲しいもんは悲しい筈だ。
若くても、年寄りでも……誰かの存在が……自分の身近な存在が、この世から消えてしまう事に無関心ではいられない。


「ねぇ……人魚姫の話って知ってる?」
唐突に葵がそう尋ねる。葵の話に脈絡がないのは、いつもの事だ。
だけど、きっと彼女の中では何かが繋がっているのだろう。

「人魚姫って……童話の?」

「そう。ハッピーエンドじゃない方」

「うーん……正直、うろ覚え。ハッピーエンドの話に塗り替えられてるって感じ」

「ハハハッ!確かに!あっちの方が有名になっちゃったかも」

「で?結局どんな話だったっけ?」

葵の話には脈絡はないけど、そこに重要な『何か』が隠されているようで……その『何か』を知りたい欲に駆られている俺は、ヒントが欲しくて彼女の言葉を漏らさず聞こうと頑張っているところだ。

「人魚姫が人間の王子を助けて、恋をして、魔女との取引で人間の足を手に入れる……ここまでは知ってる?」

「それは覚えてる。確か、声と引き換えに足を手に入れるんだよな」

「そう。人間になった人魚姫は王子と再会して幸せに過ごすんだけど……王子は見合い相手の王女が自分を助けた女性だと勘違いしちゃうの。でも声を失った人魚姫にはそれは自分だと言えないから、王子はその王女との結婚を決めてしまうのね」

「そんな話しだったっけ?そこら辺から覚えてないや」

「でね、王子が他の女性と結婚しちゃうと人魚姫は海の泡となって消えてしまうっていう制約がかけられていて、それを不憫に思った人魚姫のお姉さんが魔女と取引をしてナイフを手に入れるの。そのナイフで王子の胸を刺して返り血を浴びたら人魚の姿に戻れるっていう……」

「そんな怖い話だった?」

「この部分ってあまり子ども向けじゃないよね。でも、人魚姫は結婚が決まって幸せそうな王子を見て、自分が海の泡と消える事を選ぶのよ」

「……じゃあ、悲恋……って事?」

「そうなの。凄く悲しいお話。でね、私思うの。その後……王子は幸せになったのかな?って」

「どういう意味?」

「だって……勘違いよ?真実が分かった時……王子は後悔しなかったのかしら?だって自分の大切な女性はもうこの世に居ないのよ?」

「人魚姫の後日談を考えた事なかったけど……どうだろ?勘違いに気づかなければ……幸せなままじゃね?」

「知らない方が幸せって事?」

「いや……まぁ、知る術がないかもって事だよ」

「そうか……じゃあ人魚姫の存在って……何なんだろうね」

「でもさ、ふと俺思ったんだけど、王子は人魚姫と幸せに過ごしていた時もあった筈だろ?いつの日か……人魚姫の事を思い出すんじゃね?その時……王子はどう思うんだろうな」

「寂しい……って思ってくれるかな?」

「思う……ような気がするけど……」

「なら……彼女は泡になっても幸せね。王子の心の片隅にでも、彼女の居場所があるのなら」
と葵は寂しそうに微笑んだ。
まただ。彼女の寂しそうな、なんともいえない表情。
葵は……人魚姫と誰を重ねているのだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...