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カケラ・その20
しおりを挟むその日、俺はばあちゃん家に戻っても、悶々としていた。
俺の手の甲には葵の手の感触が残っている。
あれは……どういう意味だったんだろう。葵に嫌われている……とは思っていない。
人魚かもしれないと思っていたが、今日の話から察するに、普通の女子高生だ。
彼女が時折見せる寂しげな表情は、何なんだろう。
知りたいと思う気持ちが日に日に大きくなっていく。この気持ちはいつの日か大きくなりすぎて、爆発してしまうのではないだろうか?
俺は今まで、意外と他人に無関心だな……と自分でも思ってきた。正直……弟にもあまり関心はない。母親の愛情をとられたから?いや……そんなマザコンだったか?俺。
だけど、今の俺はどうだ?
たった十数日前に会ったばかりの葵の事ばかり考えている。……これって恋なのか?恋にしては……胸が痛すぎる。もっと、恋って……ハッピーなものだと思ってた。
葵も言っていたように、周りはもっと手軽に恋を楽しんでいるじゃないか。見知らぬ誰かにうつつをぬかしながら、他の誰かともコンタクトを取っていたりするじゃないか。もっと……手軽に……。だけど俺にはそれがとてつもなく難しいことに感じていた。
それからも俺は勇気がでないまま、そしてこの前の葵の行動の意味も尋ねる事が出来ないまま、毎日、同じ日を過ごしていた。
ばあちゃん家に来てもう二週間が経つ。夜は悶々として眠れないので、課題は捗っているが、目の下の隈がヤバい。
「希、ちゃんと寝てる?隈、酷いよ?」
と俺の顔を覗き込む葵に心の中で(誰のせいだと思ってるんだよ!)とちょっと毒づいてみる。
「学校の課題が多いんだ」
心とは裏腹な言葉が口からスラスラと出てくる。これが本音と建前ってやつか……。
「進学校って言ってたもんね。じゃあ……こうして私と会ってるのって……迷惑?本当はそんな時間ないんじゃない?」
不味い!これって『もう会うのやめようか?』の流れじゃないか?!
「いや!もう終わった!課題ぜーんぶ終了!!」
と慌てて言えば、葵は少しホッとした様に微笑んだ。
……これって、葵も少しは俺と会いたいって思ってくれてるって事……だよな?
「そう?なら良いんだけど……。無理はしないでね。身体壊しちゃったら大変だし」
「俺、めちゃくちゃ身体、丈夫なんだよね」
そう言った俺に、
「元気だからって油断しちゃダメだよ。人生、何が起こるかわかんないんだから」
と葵は少し遠くを見ながらそう言った。
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