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カケラ・その18
しおりを挟む毎日、俺は人魚の入り江へ向かう。
そんな俺をばあちゃんは何にも言わずに見送ってくれた。
図書館に行く……なんて嘘をついている事が申し訳なくなるが、それでも俺は毎日入り江へ向かう……俺の人魚に会うために。
「これ、片耳に付けて」
ワイヤレスイヤホンの片方を葵に渡す。
スマホを持っていないと言う葵だが、使い方がわからない訳ではないらしい。
「これ、俺が好きな歌なんだ」
好きな女の子には自分の好きを共有したくなるのって……普通だよな?
別に強要するつもりはないけど、同じ趣味ならやっぱり嬉しい。
「へぇ~。良い曲だね。歌詞も良いし」
俺は今どき高校生だが、曲の好みは少し皆とズレているらしい。
そんな俺のオススメを葵が良いねと言ってくれた事が嬉しすぎてニヤける。
「少し昔の曲なんだ。俺ってちょっと趣味が変わってるって言われるから」
「そう?良いものは良いよ。時間が経ってても」
「だよな。……うん。わかって貰えて嬉しい」
俺は素直に顔を綻ばせた。
「ねぇ……希は彼女いないの?」
葵からの質問に俺は咄嗟に
「い、いないよ!」
とちょっと強めに否定してしまった。いや……動揺しすぎだろ、俺。
「クスクス。そんな力強く言わなくても。
ふーん……結構モテそうなのにね」
と彼女は笑う。
……俺の答えは正解だったのだろうか?見栄をはって『居るよ』と答えた方が良かったのか『俺なんて……』と卑下する方が正解なのか……。
確かに『彼女もどき』の様なものが居た事はある。告白されて『いやだ』と言わなかっただけで、次の日から彼女って事になってた。
んで、別に何にもしなかったら、二週間後にはふられてた。セミの寿命よりは辛うじて長かった俺の交際期間……いや、セミは土の中で七年ぐらい過ごすんだった……セミの勝ちだ。
「じゃあ、葵は?……か、彼氏いるの?」
動揺して噛んだ。いるって言われたら……立ち直れないかも。
すると彼女は微笑んで
「いない、いない」
と否定した。
俺はとりあえずホッとする。心の中では(じゃあ好きな人は?)と次の疑問が湧いて出てるが、それを口に出す勇気は今の俺には無かった。
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