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カケラ・その15
しおりを挟む俺は訊かれてもいないのに言葉を続ける。
「うち、両親が離婚するんだ」
そう俺が言うと、葵はガバッと上半身を起こして横で寝転ぶ俺を見た。
「可哀想なんて思わなくて良いよ。別に俺は思ってないから」
と俺も上半身を起こして、改めて座り直した。
「どうして?って訊いても良い?」
「どうしてなんだろうな?大人って子どもを馬鹿にしてるから、理由なんて話さなくて良いって思ってるんだろ」
俺が少しやけになった様にそう言うと、
「逆じゃない?傷つけたくないだけじゃない?」
と少し眉を下げて葵は言った。
「勝手に傷つくって決めてるのも何か違うだろって思うけどな」
「……そうなんだけど……。大人は自分が傷ついてるから、きっと同じ思いをさせたくないって思ってるだけだと思うよ」
「勝手に結婚して勝手に離婚するのに?自分達が傷つくなんてあり得ないだろ」
たった二つ歳上なだけで、葵が大人側に付いているのが気に入らない。
……まぁ、この国では十八で成人だから、大人といえば大人なんだろうけど。
そこに壁を感じてしまう俺は、やっぱり子どもなんだろうか?
「きっと簡単には割り切れない何かがあるんだよ。子どもには知られたくない何かが」
「大人ぶんなよ」
つい口調がきつくなってしまった。すると、葵は俺に近づくと俺を抱きしめた。
「な、何?」
俺が葵の行動に動揺していると、
「もう傷ついてるじゃん。自分だけ置いてきぼりにされてる事に。大丈夫。きっと時が来れば嫌でも真実を知ることになるから」
と葵は苦しそうにそう言った。
その言葉に俺は胸が苦しくなった。両親に置いてきぼりにされている事も事実だし、それに拗ねてる自分は十分子どもだ。
だけど……葵の言う『真実』が他の何かを指している様で、俺は不安になる。その何かは……今の俺にはきっとまだわからないけれど。
「……ありがとう。慰めてくれて」
俺は不安を隠す様にそう言うのが精一杯だった。
そして、俺は自分を抱きしめる葵の腕にそっと手を掛けた。
ほどほどに俺の洋服が乾いた頃、俺は人魚の入り江を後にした。
俺の事を見送る葵を振り返る。
葵は俺が送ると言っても『迎えが来るから』と言って断る。
こうしていつも俺が葵に見送られるのだ。
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