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カケラ・その12
しおりを挟む「雨……止まないな」
自分の気持ちに気づいてしまった。俺はそれを誤魔化す様に立ち上がって外を見る。
さっきよりは少し雨脚は弱まって来たようだが、まだ止まない。
俺の背中に、
「小雨になったら、希は帰った方が良いよ。おばあちゃん心配してる」
と葵が声をかける。
「葵は?葵を置いて帰れないよ」
振り返ってそう言う俺に、彼女は微笑むだけだった。
『ブルッ』
少し肌寒くなって来た俺は腕を擦った。
「こっちで座ってなよ、寄り添えば少しは温かいよ?」
と言う葵の隣にそっと腰を下ろした。
隣に居る彼女を意識してしまって、ろくに顔が見られなくなってしまった。
黙っていると、少し瞼が重たくなってくる。
雪山じゃないけど、寝るのは不味いよな。
そう思っているのに、俺は体育座りをした膝の上に、ついつい顔を伏せてしまった。
どれくらい経ったのだろう。
瞼を開けると、外には星空が広がっていた。
「やべ!!葵!?」
と俺は横を向くと、葵の姿はもうそこには無かった。
「葵?!葵?!」
俺は岩の陰から外に出て、葵を探すけど彼女は何処にも見つからなかった。
俺は仕方なく、入り江を離れて自転車に乗る。
彼女の家も連絡先も知らない俺にこれ以上、葵を探す手段は無かった。
ばあちゃん家に帰ると、珍しく、しこたま叱られた。
俺は何度も何度も謝った。大切な友達との約束を忘れていたからと言ったら、
「今度からは何処に行くのか教えてから出掛けんね」
と言われた。……ごめん、ばあちゃん。
他人の私有地に入ってるから、それは言えない。
「うん、わかったよ、本当にごめん」
とりあえず俺は心の中でばあちゃんに、申し訳なさと後ろめたさを感じながら、部屋へと戻った。
次の日、早くから俺は急いで人魚の入り江へ向かった。
昨晩……結局葵を見つける事は出来なかったからだ。正直、昨日は眠れなかった。……お陰で課題は捗ったけど。
緩やかな坂を駆け下りると、その足音に気付いた葵が振り返った。
「希!」
笑顔で手を振る葵に、俺は駆け寄る。
「葵!昨日は突然居なくなってたから……」
「ごめん!……お迎えが来ちゃって。希にも声かけたんだよ?でも全然起きないんだもん。タイムリミットだったの……ごめんね」
手を顔の前で合わせて拝む様に謝る葵に、それ以上は何も言えない。……可愛いすぎるから。
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