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カケラ・その2
しおりを挟む「あ~腹いっぱい!」
風呂から上がると、俺は部屋にに敷かれた布団の上にゴロンと寝転んだ。ここは元々父親の部屋だったらしい。子どもの頃は客間に寝泊まりしていた気がするが、此処は此処で落ち着く。
怒涛のおやつ攻撃に加え、盛り沢山の夕食。
『男の子はたくさん食べるもんだろう?』
とニコニコ言ってくれるばあちゃんに『いらない』とは言えず、俺は頑張って夕食を平らげた。
「明日から……何するかな」
俺がこの田舎に素直にやって来たのは、父親から命令されたから……だけではない。
正直……俺は疲れていた。
進学校と呼ばれる高校に進学したのは良いが、授業についていくので精一杯。
周りはみんな優秀で、一年生の今でさえ既に目標の大学を見据え受験勉強を始めている奴らばかりだ。
入学してすぐに気付いた。……身の程知らずだったと。
確かに頑張れば合格は出来る高校だった。だが、俺は入学してからの事を全く考えてなかった。……父親に……母親に……俺の方を一瞬でも見て欲しかったのかもしれない。……ガキか俺は。
田舎に来れば、そんな日常から離れられる……そう思った。
皆、塾だ補習だとこの夏休みが勝負!ってぐらいに頑張ってるんだろうな……と焦る気持ちに蓋をして、俺は非日常を得る為に此処に来た。
だからと言って全てを忘れられる訳じゃない。持ってきたスーツケースの中には夏休みの課題がパンパンに詰められている。
……が今日はもう何も考えずに眠りたい。俺はそう思うといつの間にかそのまま眠りについていた。
翌日、何故か朝早くに目が覚めた。いつもなら休日だといえば、昼近くまで寝ているのが常だったのに……環境が変わったせいか?案外俺も繊細だな……と独り言ちた。
「ばあちゃん、おはよー」
「ありゃ、希、早起きだね。もっとゆっくり寝てれば良いのに」
起きて顔を洗って台所に立つ祖母へと声を掛ける。
この家はばあちゃんの独り暮らし。
じいちゃんは俺が小学生の時に亡くなった。そういえば、じいちゃんの葬式がここに来た最後だったかもしれない。
朝食はこれぞ日本の朝ごはんといった感じだ。
俺は何を隠そう和食が好きだ。かといってファーストフードが嫌いな訳でも、コンビニのホットスナックが嫌いな訳でもない。それもむしろ好きだ。
そう言えば中学に上がる頃から、母親が朝は低血圧で具合が悪いからと、朝食がちゃんと用意される事がなくなった。いつも朝はテーブルの上に自分で焼いて食えと言わんばかりに食パンが袋ごとドンと置かれていたっけ。
「希、暇ならちょっとおつかい頼まれてくれん?」
朝食が終わって部屋で寝っ転がっていた俺に、ばあちゃんが襖を開けて声を掛けた。
「いいよ。……ってか此処の自転車まだ使えるの?」
俺は上半身を起こしながらそう言うと、
「最近はあんまり乗ってないけど、使える筈だよ。あ~タイヤの空気は入れんといけんかもしれん」
とばあちゃんは少し上を見上げながらそう言った。
ばあちゃんは去年自転車に乗っててコケて結構な怪我をした。
父さんは『もう自転車に乗るな』って言ってたけど、ばあちゃんには貴重な交通手段だろう。ここら辺は車がないと本当に不便だ。バス停までも遠いし、本数も少ない。
じいちゃんが生きていた頃はじいちゃんの車があったが、亡くなってからは専ら自転車に乗っていたと聞く。
「いいよ。空気入れ貸して貰ったら、俺がするし。で、何処まで行けば良い?」
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