人魚のカケラ

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
2 / 55

カケラ・その2

しおりを挟む

「あ~腹いっぱい!」
風呂から上がると、俺は部屋にに敷かれた布団の上にゴロンと寝転んだ。ここは元々父親の部屋だったらしい。子どもの頃は客間に寝泊まりしていた気がするが、此処は此処で落ち着く。

怒涛のおやつ攻撃に加え、盛り沢山の夕食。
『男の子はたくさん食べるもんだろう?』
とニコニコ言ってくれるばあちゃんに『いらない』とは言えず、俺は頑張って夕食を平らげた。

「明日から……何するかな」
俺がこの田舎に素直にやって来たのは、父親から命令されたから……だけではない。
正直……俺は疲れていた。

進学校と呼ばれる高校に進学したのは良いが、授業についていくので精一杯。
周りはみんな優秀で、一年生の今でさえ既に目標の大学を見据え受験勉強を始めている奴らばかりだ。
入学してすぐに気付いた。……身の程知らずだったと。
確かに頑張れば合格は出来る高校だった。だが、俺は入学してからの事を全く考えてなかった。……父親に……母親に……俺の方を一瞬でも見て欲しかったのかもしれない。……ガキか俺は。

田舎に来れば、そんな日常から離れられる……そう思った。
皆、塾だ補習だとこの夏休みが勝負!ってぐらいに頑張ってるんだろうな……と焦る気持ちに蓋をして、俺は非日常を得る為に此処に来た。

だからと言って全てを忘れられる訳じゃない。持ってきたスーツケースの中には夏休みの課題がパンパンに詰められている。
……が今日はもう何も考えずに眠りたい。俺はそう思うといつの間にかそのまま眠りについていた。

翌日、何故か朝早くに目が覚めた。いつもなら休日だといえば、昼近くまで寝ているのが常だったのに……環境が変わったせいか?案外俺も繊細だな……と独り言ちた。

「ばあちゃん、おはよー」

「ありゃ、希、早起きだね。もっとゆっくり寝てれば良いのに」

起きて顔を洗って台所に立つ祖母へと声を掛ける。

この家はばあちゃんの独り暮らし。
じいちゃんは俺が小学生の時に亡くなった。そういえば、じいちゃんの葬式がここに来た最後だったかもしれない。

朝食はこれぞ日本の朝ごはんといった感じだ。
俺は何を隠そう和食が好きだ。かといってファーストフードが嫌いな訳でも、コンビニのホットスナックが嫌いな訳でもない。それもむしろ好きだ。

そう言えば中学に上がる頃から、母親が朝は低血圧で具合が悪いからと、朝食がちゃんと用意される事がなくなった。いつも朝はテーブルの上に自分で焼いて食えと言わんばかりに食パンが袋ごとドンと置かれていたっけ。


「希、暇ならちょっとおつかい頼まれてくれん?」
朝食が終わって部屋で寝っ転がっていた俺に、ばあちゃんが襖を開けて声を掛けた。

「いいよ。……ってか此処の自転車まだ使えるの?」
俺は上半身を起こしながらそう言うと、

「最近はあんまり乗ってないけど、使える筈だよ。あ~タイヤの空気は入れんといけんかもしれん」
とばあちゃんは少し上を見上げながらそう言った。

ばあちゃんは去年自転車に乗っててコケて結構な怪我をした。
父さんは『もう自転車に乗るな』って言ってたけど、ばあちゃんには貴重な交通手段だろう。ここら辺は車がないと本当に不便だ。バス停までも遠いし、本数も少ない。
じいちゃんが生きていた頃はじいちゃんの車があったが、亡くなってからは専ら自転車に乗っていたと聞く。


「いいよ。空気入れ貸して貰ったら、俺がするし。で、何処まで行けば良い?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...