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第38話
しおりを挟む私は本当に周りの人に恵まれている。
陛下が、ライラお義母様が、マルコ様が、セドリックが、そして侍女達や、側近達が…数え挙げればきりがない程に私を手助けしてくれていて、私はそんな中、王妃として…そして母として過ごす事が出来ていた。
「おかあさま!見て見て!ちょうちょ!」
「あら本当ね。でも、触っちゃダメよ?
蝶の羽には粉が付いていてね、人間が羽を強く握ったりすると、その粉が取れてしまうの。
そうなったら、蝶は上手く飛べなくなってしまうのよ」
「とべなくなるの?それは…かわいそうね。わかった。
ぼく、さわらない…見てるだけならいい?」
「ええ、もちろん。きっと花の蜜を吸いに来たのね」
ここは王宮の中庭。4歳になったイオは外で遊びたい盛りだ。
私は大きなお腹を抱え、東屋で休んでいた。
「クロエ様はここで休んでいて下さい。私がイオ様に付いていますから」
そうマルコ様は言うと、蝶を追いかけ、中庭を駆け回っているイオの元へと急いで行った。
私はその様子を微笑みながら見ている。
「クロエ様、果実水です。どうぞ」
とマリアが私に差し出したグラスを受け取り、私は喉を潤した。
「今日は少し暑いわね…」
「本当に。クロエ様、気分は悪くありませんか?」
と心配そうなマリア。
私は大きくなったお腹をさすり、
「お腹が大きくなった分、余計に暑い気がするわ」
と笑った。
産み月はもう来月に迫っている。
陛下は出産の時に苦しんだ私を見ていたので、『もう子どもはイオだけで良いんじゃないのか?』と言っていた。
でも、私はイオに弟妹をつくってあげたかったのだ。
子どもがこんなに可愛いものだとは思わなかった。
前世でも特別子ども好きと言う訳ではなかったし、実際、子どもは欲しかったが、その願いは叶わなかった。
陛下はイオをとても可愛がってくれている。こんなに子育てに協力している国王なんて、この長い歴史あるラインハルト王国では初めてだろう。
最近は前国王の体調が思わしくない。ライラお義母様はずっと付き添っていらっしゃると聞く。
1週間程前にお見舞いに伺ったが、寝台に横たわる前国王の顔色は悪かった。
ライラお義母様は、
「元気な子を産んで頂戴ね。私は今、幸せよ。ずっと彼と一緒に居れるんだもの」
と私を安心させるように手を握ってくれた。
私が東屋でイオの遊んでいる姿を眺めていると、後ろから、
「クロエ、暑くはないか?」
と陛下が私の元へとやって来ていた。
私は振り返り、
「まぁ、陛下。お仕事はよろしかったのですか?」
と訊ねると、
「クロエとイオの姿が見えたからな。少しぐらいサボっても良いだろう」
と笑いながら私の横へと腰かけた。
横に腰かけた陛下は私の手を握り、その甲へと口づけた。
可愛い息子と、優しい夫。そして、もうすぐ生まれてくる新しい命。
私は思わず、
「陛下…幸せですね」
と呟く。
すると陛下も、
「あぁ。幸せだな」
と私を少し抱き寄せた。
婚約解消されてお飾り王妃になった私が、こんな幸せを手に入れる事が出来るなんて、誰が想像出来ただろう。
これだから人生は面白い。
私が陛下に、
「陛下、これからもよろしくお願いしますね」
と言うと、
「なんだい急に」
と笑いながら、
「これからも、ずっと…その先も、私はクロエとなら何でも出来る気がするよ。君はこの国も、私も変えてくれた。本当にありがとう」
と私に礼を言う。
すると、向こうから、
「おとうさま~」
と陛下の姿を見つけたイオが走ってくるのが見えた。後ろからはマルコ様がそのイオを追いかけている。
陛下は立ち上がりイオの元へと向かうと、イオを抱き上げた。
私はその姿を眺めながら、思わず笑みが溢れる。
転生の神様がいるなら、私は感謝する。
色々ありましたが、私、今、幸せです!
-fin-
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