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第32話

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すると、近衛騎士がワラワラと入室してきたかと思えば、サーチェス公爵とエリザベート様を取り囲んだ。

「な!なんだ!お前達は!」
と先程の怒りのままに怒号を浴びせるサーチェス公爵と、大柄な男達に囲まれてすっかり怯えてしまったエリザベート様。

私もその様子に驚き、隣の陛下に視線をやると、目が合った。
そして、陛下は私に微笑むと、今度は厳しい顔をしてわぁわぁと騒いでいるサーチェス公爵に視線を投げた。


「サーチェス公爵。隣国よりヘリッジ公爵の脱税の件についてお前達にも話を聞きたいと書状が来ている」
と陛下が言うと、

「話を聞くだけで、この物々しさはなんですか!これじゃあ、まるで罪人だ!」
とサーチェス公爵は怒りを露にした。

続けて陛下は、

「あ、そうそう。それとヘリッジ公爵と共謀した詐欺罪で逮捕…という事らしい。
…罪人のようなのではなく、お前は罪人なんだよ、サーチェス公爵。
隣国での処遇によってこちらもお前の身の振り方を考えさせてもらうとするよ。
まぁ、きっと向こうで処罰が言い渡されるだろうがな。おい、もう話は済んだ。2人を連れて行け」
と近衛に合図をした。

近衛に捕まったサーチェス公爵は、

「詐欺なんて、私は知らん!あいつが勝手にやったことだ!知らん!知らん!離せ!触るな!」
と暴れているが、近衛にそんなものが通用する筈もなく、引っ張って連れて行かれた。

それを見て、真っ青になっているエリザベート様に近衛が触れようとするも、エリザベート様は震える手でその手を叩き落とした。

「私はエリザベート・サーチェスです。自分の足で歩けます」
と弱々しい声ながらも毅然とした態度で近衛と共に扉に向かう。

あと少しで扉…という所でエリザベート様は振り返り、私に向かって、

「私は貴女がずっと大嫌いだった。
私より勉強も出来ないし、マナーだって私程洗練されていなかった。なのにデイビッド殿下は貴女を欲した。
彼の目は1度も私を見てくれなかった。
…陛下も同じ。あの馬鹿な女に入れあげた時には、ざまぁみろと思ったわ。
あんな女、だれからも王族として認められない。陛下も一緒に不幸になれば良い。私を認めなかった罰だと、そう思った。
貴女が『お飾りの王妃』に選ばれた時には手を叩いて喜んだわ。ジュネ公爵には少し同情したけど、貴女が不幸になるなら、それで良いと思った。
貴女も私と同じ様に、パートナーから目を向けられない惨めさを味わえば良いと思った。
それなのに…貴女はいつも幸せそう。何故か陛下にも大切にされていたし…。
私は誰にも愛されていないというのに!不公平よ!貴女からの手紙に『お幸せに』と書いてあったわ。…その時に思ったの。貴女なんて死ねば良いのにって!」

と涙を流しながら、最後はまるで叫ぶように声を上げた。

近衛がその態度に、取り押さえようとするのを私は手で制して。

「…陛下は貴女と結婚していても…例えセリーナを愛して貴女をお飾りの王妃として扱っても、貴女を蔑ろにする事はなかったわ。
陛下はちゃんと、貴女を王妃として敬い、そのように扱ったでしょう。
でも、その道を選ばなかったのは、貴女。そして、この道を選んだのは私自身よ」
と私が言うと、エリザベート様は嗚咽しながら、その場に泣き崩れた。


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