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第31話
しおりを挟むエリザベート様はぐっと下唇を噛み締めて私を睨み付けた。
握った拳は小刻みに震えている。
そこで、でしゃばって来たのは公爵だ。
「両陛下に申したい事が御座います。お2人のお気持ちは十分理解いたしましたが、だからといって今のやり方では、どのみち納得出来ない貴族を押さえる事が出来なくなるのは明らかです。
ここは、私にお任せ下さい!私がしっかりとおさめてみせます。…それで…良ければ私を宰相の座に戻していただきたいのです」
はい?エリザベート様の側妃の件は?敗戦濃厚になったからってあっさり諦めるの?
エリザベート様も自分の父親の変わり身の早さに、目を丸くする。
「お父様!私の事をいかがなさるおつもりなのですか!!私はお父様に言われたから…公爵と離縁したのですよ?」
と反論するエリザベート様に、
「あの男はもう終わりだ。沈みかけた船にいつまでもしがみついていたって仕方ないだろう!」
と小声で諌めるサーチェス公爵。
…とはいえ、バッチリ聞こえてるけど。
「そんな…。公爵は離縁した途端にあの女と結婚したんですよ!
あの女は私が逃げ出すのを待っていたんです。お父様に言われなければ、私は逃げ出さず、あの女の思う通りにならなくて済みましたのに!」
「お前だって、あんな男を好いていた訳ではあるまい。あんな馬鹿は熨斗をつけてあげてしまえば良いんだ。
それに、このまま側妃になったとしても、さっき言われた通り、お飾りになるだけ。お前に従う者など居なくなってしまうのだぞ!」
『あの女』だの『あの男』だのと言っていても、結局は自分達に火の粉が振りかかる前に、さっさと見切りをつけただけではないか。
エリザベート様はヘリッジ公爵と愛人がすんなり結婚した事が悔しいみたいだが。
「だからといって、側妃にならなければ、私はどうなるのです?あのままであれば少なくとも公爵夫人ではいられましたのに…!」
「だ、か、ら!私が宰相に返り咲けば、お前にも良い相手を見つけてやる事が出来るだろう!
お前は黙って私の言う通りにしておきなさい。あの時だって…お前が勝手に婚約破棄などしなければ良かったんだ。そうしたら王妃はお前のものだった!」
「そんな!お父様は私のしたいようにすれば良いと言ったではないですか!それにヘリッジ公爵との結婚だって、お父様が見つけてきたご縁。
私はちゃんとお父様に従いましたわ!」
…私達の目の前で醜い親子喧嘩が繰り広げられている。
呆れるばかりだ。
「おい!いい加減にしないか!サーチェス公爵。お前を宰相にするつもりはない。
何を勝手に話を進めているんだ。
私とクロエはどんなに反発されても今の方針を変えるつもりはない。
しかしな。領民が豊かになれば、間違いなく領主も豊かになれる。時間はかかっても、その結果、貴族達にも良い結果をもたらす事になると私は…いや、私とクロエは信じているんだ。
少しずつでも納得してもらえるように結果を出していくしかない。
長い道のりであったとしても…だ。だから、お前に頼るつもりもない」
と陛下が言うも、
「いずれ後悔なさいますよ!」
とあくまでも、サーチェス公爵は強気にそう言った。
「あ~うるさいな。もう黙ってくれないか?お前達の声は胎教に悪い」
と陛下が言うと、サーチェス公爵は真っ赤になって、
「ふざけるな!」
と怒り出した。
すると、陛下の側近が何やら緊迫した面持ちで駆け寄ると、陛下に耳打ちをした。
陛下は頷いて、側近に何かを指示すると、
「サーチェス公爵。お怒りの所、申し訳ないが、もうこの話は終わりだ。
そして、2度と私の前に顔を見せるな。…いや…もう見せる事が出来なくなるかもしれないな」
と陛下は言うと、ニヤリと笑った。
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