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第26話
しおりを挟む「陛下、如何されましたか?護衛達も側近達も困っておりますよ?」
と私が声を掛けても、陛下は目を合わせようともせず、そっぽを向いたまま無言だ。
私はツカツカと陛下が座る執務机の前に行き、腰を屈めて両方の手で陛下の頬を包むようにして顔を掴むと、ぐりん!と私の方へ無理矢理向かせた。
「いてて!」
と顔をしかめる陛下の目線に私の目線を合わせると、
「サーチェス公爵とエリザベート様に何を言われました?此方へ来ていたのですよね?」
と穏やかな口調で訊ねる。
陛下はそれでも必死に私の視線から逃れようとするも、私は更に陛下の顔を持ち上げて、自分の視線と合わせた。
じっと、陛下の瞳の中を覗く。
すると、陛下は観念したように、
「クロエは妃に相応しくないと」
と苦々しく言葉を口にした。
私を嫌っている貴族は一定数いる。
国民に寄り添い過ぎている事が原因だが、私の中では貴族も平民もこの国で生きている国民なのだ。違いはない。
命に優越はないのだ。
基本的人権は守られるべきだし、貧富の差だって、出来れば是正したい。
貴族と平民の間には高くて越えられない壁がある事は百も承知。
しかし、それに見合うだけの働きをしない貴族には貴族の特権を振りかざす事は許されない…そう私は思っているだけだ。
「まぁ、そんな事、言われ慣れておりますのに」
と私が陛下の頬から手を離し微笑むと、今だ陛下は不機嫌そうに、
「そんなものに慣れる必要はない。…それに慣れているからと言って傷つかない訳じゃない」
と不貞腐れて言った。
「言わせたい者には言わせておけば良い…そう思ってはいましたが、私の代わりに陛下が怒って下さって…嬉しく思いますわ」
「『嬉しい』のはおかしいだろう?クロエはもっと怒っても良い」
「心の中では、その者達に悪態をついておりますのよ?口に出さないだけですわ。
陛下が私の心の内を覗いたら、あまりにドロドロとしていて、びっくりされてしまうかもしれません。
…でも、陛下がそこまで不機嫌なのは、それだけが原因ではありませんよね?
そんなに、私に話し難い事柄ですか?」
と私は陛下の瞳を覗き込む。
陛下の瞳は動揺からか、少し揺れていた。
そしてそっとため息をついたのだった。
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