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第23話
しおりを挟むルードリヒ殿下歓迎の晩餐会を終え、私と陛下は部屋に戻る。
湯浴みをして夜着に着替えると、ドッと疲れが押し寄せた。
エリザベート様にあんなに嫌われていたとはビックリだ。
デイビッド殿下の気持ちをエリザベート様は知っていたという事か…。エリザベート様は本当にデイビッド殿下がお好きだったのだろう。
女の嫉妬というのは、物凄く恐ろしい。
私が寝室へ行くと、まだ陛下は部屋に居なかった。
今日は通常の業務を殆んど出来ていない。もしかしたら、残業でもしているのかもしれない。
私もクタクタだ。…先に寝ても良いかしら?
そう思って寝台に向かっていると、陛下の部屋に繋がる扉から陛下が入って来た。
私は、
「陛下、お疲れさ…」
と声を掛けようと振り返ろうとしたが、物凄い早さで私の背後に来た陛下から、思いっきり抱き締められた。
私はビックリして、
「陛下?!どうなさいました?」
と声を掛けるも、陛下は私の肩に額を付けたまま動かない。
私は自分に巻き付いている陛下の腕にそっと触れると、
「何があったのですか?私にも言えない事?」
と優しく訊ねた。
「私は、昔から兄にコンプレックスを持っていた。兄の言動に眉をひそめる者も多かったが、兄には人を惹き付ける魅力があった」
と陛下はゆっくりと話始めた。
私は陛下の腕に触れたまま、黙って話を聞く。
「エリザベートには、いつも兄と比べられてダメ出しをされていたよ。
彼女は兄が好きだったからな…。しかし、彼女にそう言われて…自分に自信が無くなっていったのは事実だが…こんな気持ちになったりはしなかった」
そう苦しそうに言う陛下に、
「こんな気持ち?」
と私は疑問を口にした。
「…クロエも兄を好きだったんだろう?」
とますます苦しそうな声を出す陛下。
…前にそんな話をしたわね…
「前にも言った通り、初恋に近いものはあったかもしれません。デイビッド殿下の自由な所に惹かれていた時もありました。何故、今さらそのお話を?」
「私は兄もクロエの事を好きだったなんて…知らなかった。2人はお互い想いあっていたのだと思ったら、…何故か胸が苦しいんだ。兄はもうこの世にいないのに」
「陛下…。まだお兄様に囚われているのですか?貴方は貴方。デイビッド殿下はデイビッド殿下。比べるものではありません。
それに、私はアレクセイ・ラインハルトの妻です。それは胸を張って言えますわ」
と私は言って、体の向きをクルリと変えた。そして陛下と向かい合う。
「しかし…死んだ者には敵わない」
と言う陛下に、
「確かに、亡くなった方の悪い所はこれ以上見えてくる事はありませんし、想い出は美化します。
…でも、良い所もこれ以上見えてくる事はないのです。
私は陛下の良い所をたくさん知っています。これからも、もっともっとたくさん知る事になるでしょう。それでもデイビッド殿下に敵わないと思いますか?」
と言って、少し背伸びをすると陛下の口にキスをした。
「それに、こうして口づけをする事も出来ませんし、温もりを感じる事も出来ません。それでも敵わないと思いますか?」
と言って私が陛下の胸に顔を埋めると、陛下は私をもう1度抱き締めて、
「…嫉妬というのは恐ろしいものだな。こんな醜い気持ちになるのか…気を付けるよ」
と言って、私の頭にキスをした。
嫉妬とは本当に怖いものである。自分でもコントロールするのは難しいという事だ。
さっき陛下がエリザベート様を呼び捨てにした事を、今、密かにムカついている私が言うのだから間違いない。
…流石に空気を読んで口にはしないつもりだけど。
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