23 / 38
第23話
しおりを挟むルードリヒ殿下歓迎の晩餐会を終え、私と陛下は部屋に戻る。
湯浴みをして夜着に着替えると、ドッと疲れが押し寄せた。
エリザベート様にあんなに嫌われていたとはビックリだ。
デイビッド殿下の気持ちをエリザベート様は知っていたという事か…。エリザベート様は本当にデイビッド殿下がお好きだったのだろう。
女の嫉妬というのは、物凄く恐ろしい。
私が寝室へ行くと、まだ陛下は部屋に居なかった。
今日は通常の業務を殆んど出来ていない。もしかしたら、残業でもしているのかもしれない。
私もクタクタだ。…先に寝ても良いかしら?
そう思って寝台に向かっていると、陛下の部屋に繋がる扉から陛下が入って来た。
私は、
「陛下、お疲れさ…」
と声を掛けようと振り返ろうとしたが、物凄い早さで私の背後に来た陛下から、思いっきり抱き締められた。
私はビックリして、
「陛下?!どうなさいました?」
と声を掛けるも、陛下は私の肩に額を付けたまま動かない。
私は自分に巻き付いている陛下の腕にそっと触れると、
「何があったのですか?私にも言えない事?」
と優しく訊ねた。
「私は、昔から兄にコンプレックスを持っていた。兄の言動に眉をひそめる者も多かったが、兄には人を惹き付ける魅力があった」
と陛下はゆっくりと話始めた。
私は陛下の腕に触れたまま、黙って話を聞く。
「エリザベートには、いつも兄と比べられてダメ出しをされていたよ。
彼女は兄が好きだったからな…。しかし、彼女にそう言われて…自分に自信が無くなっていったのは事実だが…こんな気持ちになったりはしなかった」
そう苦しそうに言う陛下に、
「こんな気持ち?」
と私は疑問を口にした。
「…クロエも兄を好きだったんだろう?」
とますます苦しそうな声を出す陛下。
…前にそんな話をしたわね…
「前にも言った通り、初恋に近いものはあったかもしれません。デイビッド殿下の自由な所に惹かれていた時もありました。何故、今さらそのお話を?」
「私は兄もクロエの事を好きだったなんて…知らなかった。2人はお互い想いあっていたのだと思ったら、…何故か胸が苦しいんだ。兄はもうこの世にいないのに」
「陛下…。まだお兄様に囚われているのですか?貴方は貴方。デイビッド殿下はデイビッド殿下。比べるものではありません。
それに、私はアレクセイ・ラインハルトの妻です。それは胸を張って言えますわ」
と私は言って、体の向きをクルリと変えた。そして陛下と向かい合う。
「しかし…死んだ者には敵わない」
と言う陛下に、
「確かに、亡くなった方の悪い所はこれ以上見えてくる事はありませんし、想い出は美化します。
…でも、良い所もこれ以上見えてくる事はないのです。
私は陛下の良い所をたくさん知っています。これからも、もっともっとたくさん知る事になるでしょう。それでもデイビッド殿下に敵わないと思いますか?」
と言って、少し背伸びをすると陛下の口にキスをした。
「それに、こうして口づけをする事も出来ませんし、温もりを感じる事も出来ません。それでも敵わないと思いますか?」
と言って私が陛下の胸に顔を埋めると、陛下は私をもう1度抱き締めて、
「…嫉妬というのは恐ろしいものだな。こんな醜い気持ちになるのか…気を付けるよ」
と言って、私の頭にキスをした。
嫉妬とは本当に怖いものである。自分でもコントロールするのは難しいという事だ。
さっき陛下がエリザベート様を呼び捨てにした事を、今、密かにムカついている私が言うのだから間違いない。
…流石に空気を読んで口にはしないつもりだけど。
61
お気に入りに追加
978
あなたにおすすめの小説
【完結】彼と私と幼なじみ
Ringo
恋愛
私には婚約者がいて、十八歳を迎えたら結婚する。
ある意味で政略ともとれる婚約者とはうまくやっているし、夫婦として始まる生活も楽しみ…なのだが、周囲はそう思っていない。
私を憐れむか馬鹿にする。
愛されていないお飾りなのだと言って。
その理由は私にも分かっていた。
だって彼には大切な幼なじみがいて、その子を屋敷に住まわせているんだもの。
そんなの、誰が見たってそう思うわよね。
※本編三話+番外編四話
(執筆&公開予約設定済みです)
※シリアスも好物ですが、たまには頭を空っぽにしたくなる。
※タグで大筋のネタバレ三昧。
※R18命の作者にしては珍しく抑え気味♡
※念のためにR15はしておきます。
悪役令嬢と呼ばれた彼女の本音は、婚約者だけが知っている
当麻月菜
恋愛
『昔のことは許してあげる。だから、どうぞ気軽に参加してね』
そんなことが書かれたお茶会の招待状を受け取ってしまった男爵令嬢のルシータのテンションは地の底に落ちていた。
実はルシータは、不本意ながら学園生活中に悪役令嬢というレッテルを貼られてしまい、卒業後も社交界に馴染むことができず、引きこもりの生活を送っている。
ちなみに率先してルシータを悪役令嬢呼ばわりしていたのは、招待状の送り主───アスティリアだったりもする。
もちろん不参加一択と心に決めるルシータだったけれど、婚約者のレオナードは今回に限ってやたらと参加を強く勧めてきて……。
※他のサイトにも重複投稿しています。でも、こちらが先行投稿です。
※たくさんのコメントありがとうございます!でも返信が遅くなって申し訳ありません(><)全て目を通しております。ゆっくり返信していきますので、気長に待ってもらえたら嬉しかったりします。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる