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第13話

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翌日から毎日、

「陛下からお花ですよ」
とマリアが持って来た大きな花束に、

「もう、飾る所がないんだけど…」
と私は困ってしまう。

陛下はあれから全く顔を見せなくなったが、こうして毎日花を贈ってくれるようになった。

「廊下にでも飾りますか…あ、はい、これ。いつものメッセージカード付です」
とマリアは私に陛下からのメッセージカードを手渡してくれた。

『クロエ、すまなかった。ゆっくり休んで欲しい』

『クロエ、この前は悪かった。クロエの顔を見れずに寂しい』

『クロエが居ない事がこれ程辛いとは思わなかった。許してくれるなら、顔を出しても良いだろうか?』

あれから毎日、こうして花束に添えられたメッセージ。

短い言葉の中に、陛下の反省の気持ちと…私に対する気持ちが記されていた。

私がそれに目を通していると、マリアが私の顔の前にさっと手鏡を差し出した。

そこには少し口角が上がって、目を丸くする私が写っている。

「何なの?マリア」
私が驚いて訊ねると、

「メッセージカードを読んでいるクロエ様のお顔を見せたかったのです…いつも微笑んでいらっしゃるから」
とマリアが笑う。

「え?私、笑ってた?」
と訊ねる私に、

「まぁ…言葉は悪いですけど、ニヤニヤしていらっしゃいました」
とマリアは歯に衣着せぬ物言いで言った。

「ニヤニヤって…。私、そんなに締まりのない顔をしていたかしら?」

「ええ!それはもう!」
と嬉しそうに言うマリアに、私は、つい可笑しくなってしまった。

「そんな堂々と胸を張って言わないでよ。…そう…私、笑ってるのね」
と私が改めて言うと、

「ええ。…とても嬉しそうですよ?そろそろ陛下を許して差し上げては?」
と言われてしまった。

もちろん、私はもう怒ってなどいないし、なんなら、私の方こそ謝りたいぐらいなのだが…切っ掛けって難しい。

私は、

「ねぇ、ジュリエッタはどうしてる?」
とマリアに訊ねる。

「相変わらずサボってますけど…ナラさんが厳しく指導はしてますよ。
身に付いていないだけで」
と、サラッと答えた。

マリアのあっさりした所が私は好きだ。

「そう…ナラにも申し訳ないわね。もちろん、マリアにもサマンサにも…」

「クロエ様が気にする必要はないですよ!
ジュリエッタ様に全責任があるんですから。…最近は、陛下からも取り合って貰えてないんで、かなりご機嫌ナナメですけどね」
とこれまたサラッとマリアは答えた。

…陛下…ジュリエッタに構っていないのね…。

私がそう思っていると、

「クロエ様、またニヤニヤしていらっしゃいますよ?」
とマリアは笑った。

…間違いなく、今の私は嬉しかったのだ。陛下がジュリエッタと共に居ない事を聞いて。

私は、

「マリア、私にもカードとペンを」
と頼むと、マリアは直ぐに持って来てくれて、

「はい、どうぞ。書いたら言って下さい。直ぐに陛下に持って行きますから」
とまた胸を張った。

…宛先はバレているようだ。

私はカードを認めると、マリアにそれを渡す。

マリアは笑顔で受けとると、直ぐ様部屋を出ていった。

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