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第9話

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「馬鹿を言わないで。貴女は婿を取ってオーヴェル侯爵を継ぐの。この話、何回目?何度も同じことを言わせないで」

私が呆れたように言うと、

「知ってる?お義兄様はお姉さまの尻に敷かれてるって噂されてるの?」

…急に何の話?

「何の事?」

「私、他の侍女とも話をする事があるけど、皆言ってるわ、『陛下は妃陛下の顔色を伺ってばかりでお可哀想に』って。
私もそう思うわ。お姉さまはお義兄様の気持ちも考えずに、威張ってばかり。
お姉さまは結局お飾りなんでしょう?大好きな仕事だけしてれば良いじゃない。
その代わり、私が側妃になって、お義兄様を癒してあげたいの!それはお姉さまには無理でしょう?」

と得意満面な顔で話しをするジュリエッタに嫌気がさす。

私が一部の貴族に嫌われていて、その家の令嬢もこの王宮で侍女として働いている事は承知していたが、そんな噂が流れているのか…。
私って、そんな風に見えているのね。『かかあ天下』という前世の言葉が私の頭を過る。

黙る私がジュリエッタの目には落ち込んでいるように見えたのか、何故か彼女は嬉しそうに、

「お姉さまって…本当に自分がわかっていないのね。お姉さまって結構皆に嫌われてるのよ?
ほら…私は、皆に好かれるタイプでしょう?お義兄様が私に惹かれるのも無理はないと思うの。
お父さまもお母さまも、私だけを可愛がってくださっているのが何よりの証拠」
と調子に乗って、自分がどれ程皆に愛されているかをベラベラと喋り始めた。

私はそのよく動く口を見ながら、『口よりも手を動かせば仕事が捗るのに』と考えてしまう。
…その考えが可愛くないのだろうけれど。

すると、私の後ろのマルコ様から怒気のオーラが漂ってくる。…不味いわ。

それを察知したのか、部屋の隅にいたナラが、

「ジュリエッタ様、今の貴女はただの侍女。妃陛下への物言いは十分に気を付けなければ罰せられます。今すぐ謝罪を」
と声をかけるも、

「うるさいわね!私は侯爵令嬢なの!おばさんは黙ってて!」
とジュリエッタが声を荒げた。

私はそれには我慢出来ず、

「ジュリエッタ。ナラは今、貴女より立場は上よ!ナラの言う通り、私への今の物言いは不敬罪に当たるわ。処罰しても良いのよ?」
と言うと、ジュリエッタは、

「なによ!妹にその態度!お父さまに言い付けてやるから!」
と吐き捨てると、部屋を出て行った。

ナラは、

「申し訳ありません。出過ぎた真似を」
と私に謝る。

「ナラが謝る必要は全くないわ。貴女の言う通りだもの。あの娘は…ダメね。手に負えないわ。
…明日にでもオーヴェル侯爵を呼んで」
と私が言うと、後ろのマルコ様が、

「オーヴェル侯爵には伝達をしておきます。…クロエ様、何も言えず申し訳ありません」
と謝罪した。

…皆…。謝るのは私の方なのに…。

「マルコはナラに感謝して?ナラは貴方が暴走しないように、口を挟んでくれたと思うわよ?」
と私がマルコ様に言うと、マルコ様は素直にナラにお礼を述べた。


私はその後も色々と忙しく働いていたのだが、今回は月の物による気分不良が酷い。

前世でもPMSや生理痛が重かった私だが、クロエになってからここまで酷いのは初めてだ。

最近はジュリエッタと陛下の事でイライラする事が多く、ストレスフルな生活だったせいだろうか?

しかし、私はつい限界まで我慢してしまった。

…そしていつの間にか…倒れてしまったのだ。
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