上 下
21 / 22

結婚報告

しおりを挟む

翌日、私は自転車に乗れなくなった千秋くんを車で送ってから、自分の仕事に向かった。

結婚した事で、色々と事務処理が必要だろうな…そう思いながら仕事をする。

なんだかんだで今日も忙しく、結婚についてはまだ誰にも報告できていない。

そのうちお昼になったので、いつものように食堂へ行く。

「奏~こっち~」

今日も真奈美ちゃんが席を取ってくれていたようだ。

「ありがとう。今日も結構忙しいね~」
そう言いながら、私はコンビニで買ったカツサンドを開ける。

「あれ?今日はお弁当じゃないの?女子力アピールは終了って感じ?
でも三日坊主じゃなかったじゃん。凄いよ~」

千秋くんが手を怪我したので、昨日から家事は全般私が引き受ける事になったから今日は愛妻(夫?)弁当ではないのだが…

「あ~うん。作ってくれてた人が怪我しちゃったからね~」

「へっ?自分で作ってたんじゃないの?」

「うん。嘘つくつもりはなかったけど、言いそびれちゃった」

「え?誰、誰?」

「えっと…旦那?」

「はぁ?!」
と、めちゃくちゃ大きな声で叫んだ上に真奈美ちゃんが立ち上がったもんだから、すっごい注目の的なんですけど…

「とりあえず落ち着いて。ちゃんと話すから」

「落ち着いてられるわけないじゃん!
どういう事?抜け駆け?ねぇ、抜け駆けなの?」

「真奈美ちゃん…とにかく座ろう。そして声のボリュームを落とそうか」
渋々真奈美ちゃんは椅子に座る。

周りはヒソヒソ話をしながら、私達の会話に聞き耳を立てている事を痛いほど感じる。
こんな中、非常に話しにくい。

「ねぇ、場所変えない?」
と私は提案するも、

「い~や。今すぐ聞きたい。教えてくれるまで動かない!」
…真奈美ちゃん…空気読もうよ!

「ふぅ~。わかった。話します」

「で?旦那って何?そんなアダ名の人?」
んな訳ない。

「旦那は旦那。夫だよ」

「誰の?」

「私の」

「って事は結婚したって事?」

「そういう事になるね」

「いつ?」

「昨日」

「新婚?」

「ホヤホヤ」
何、この一問一答みたいなやり取り。

「どこの誰よ」

「うーん。真奈美ちゃんの知らない人」

「じゃあ、職場関係じゃないんだ」

「うん。ホテルで働いてるから」

「何処で知り合ったの?」

「うんと…大型スーパー?」
ガチャとは言えないが場所は間違ってない。

「え?なんでそんな所で?ナンパ?」

「うーん…みたいなもの?」
歯切れは悪いが仕方ない。『ガチャで引いた』なんて言ったって誰も信じない。

「で、いつから付き合ってたの?」

「えっと…1ヶ月と少し前ぐらいかな?」

「え?それで結婚?早くない?」

「まぁ…確かに。でもずっと一緒に暮らしてたから」

「ふ~ん。じゃあ、あの毎日のお弁当は…」

「そう。彼が作ってくれてたの」

「なるほどねぇ。なんか納得。奏ってそんなタイプじゃないもんね」
そんなタイプってどんなタイプよ!

「でもさぁ、奏、もう男はいらなーいって言ってなかった?」

「言ってたね」

「なのに、結婚?」

「そうだね。実は彼が交通事故にあっちゃって」

「え?事故?」

「うん。怪我は大した事なかったんだけど、その時さ『家族です』って胸はって言えなかったんだよね。
まぁ、結婚してないから当たり前なんだけど。
その時にさ、この人がもし、もっと大きな怪我や病気した時、家族の同意が必要な手術とかさ、色々な手続きの保証人とかさ、なんかそんな時に、私って何にも出来ないのかなぁとか、私の立場ってなんだろうとか思ったらさ、彼と家族になりたいなぁって思ったの。
彼…家族がいないから」

「…そうなんだ。でも、奏が結婚したいなって思える程の男だったって事だよね」

「そうだね。私には『理想のオトコ』だね」
そう言って私は微笑んだ。

「うわ~。『幸せです』って顔しちゃって。惚気かよ!」
そう真奈美ちゃんが笑う。

「え?そんな顔してた?」 

「してた、してた。蕩けそうな顔してたよ。……良かったね、奏。結婚、おめでとう」

「…ありがとう」

なんかちょっぴり泣きそうになる。

「あ~でも羨ましいなぁ。私も結婚したーい!
そうだ、ねぇ、旦那さんの写真ないの?
見せてよ」

「うーん。まぁいいけど」
といって私はポケットからスマホを出す。家で、私と千秋くんともなかの3人(2人と1匹?)で撮った写真を見せると、

「え?旦那イケメン。ってか…若くない?」

「うん。20才だからね」

「はぁ?20才?犯罪じゃん!」

またまた真奈美ちゃんが大きな声を出し立ち上がった。
…本当に落ち着いて欲しい。そして立派に成人してるので、犯罪ではない。

私はもう周りの目が怖すぎて顔を挙げられない。

私はうつむいたまま、小さな声で

「犯罪じゃないもん…」
と言うのが精一杯だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

つがいの皇帝に溺愛される皇女の至福

ゆきむらさり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...