上 下
3 / 22

最悪の目覚め

しおりを挟む
「ねぇ、ねぇ、ねぇ」
誰かが私の肩を揺さぶる。

「うーん。今日は休み…」と寝ぼけながら、返事をする。まだ寝ていたい。

「そっかぁ。じゃあ俺ももう少し寝てよっと。」何故か私以外の声がする…夢かぁ。
そう思いながら私は2度寝に突入した。


ピビピとスマホのアラームが鳴る。例え休日でも昼まで寝るのは勿体無い。多分今は午前9時だ。
カーテンの隙間から入る日の光もかなり明るい。
そろそろ起きるかと目を開けると、そこには見たこともない男の子が寝ていた。

私は目を見開き急いで体を起こす。人間、びっくりし過ぎると声も出ない。

私が上半身を起こした反動でベッドが軋む。それが聞こえたのか、私の隣で寝ていた誰かが目を開けた。

「あ、おはよう」

金縛りが解けたように動けるようになった私は大声を出す為に息を吸い込んだ途端、見知らぬ誰かさんに手で口を塞がれた。

「大きい声出したら、近所迷惑だよ。はじめまして、佐久間 奏さん」
とキラッキラッの笑顔でその男の子は微笑んだ。

塞がれていた手を急いでどける。

「ちょっと、誰?なんでここにいるの?」
冷静に考えれば、すぐさまここを離れて、警察に電話するべきだ。
パニックになっているのは間違いない。

昨日はお酒も飲んでないし、夜に外出をした形跡もない。
ちゃんと、夜寝るときに着た、Tシャツと短パンを着てるし、事後という雰囲気もない。
大丈夫。落ち着け私。


「俺は、橘 千秋。20歳。昨日は俺を選んでくれてありがとう。」
とこれまたキラッキラッの笑顔で彼は答えた。

昨日選んだ?私は夢遊病か何かか?それで彼をナンパして家に連れ込んだの?
良く見ると、彼は柄シャツにパンツを履いている。
良かった。裸じゃない。
いやいや、それだけが問題じゃない。落ち着け。落ち着け、私。

ということは、辛うじて犯罪ではないよな。でも、3年男が居ないからって、節操なさすぎない?私。

頭の中で色々な考えがぐるぐるしてる。マジでパニック。
もうどこから解決して良いのか、わからない。

「と、とりあえず、橘君」

「千秋でいいよー」

「千秋君。私が君をここに連れて来たんだね。」

「うん。そうだよ。」
私の夢遊病が確定した。専門の病院に行こう。

「そっか。それは申し訳ない。言い訳になるけど、全然記憶になくて。」

「えーショックだなぁ」

「うん。ほんとにごめん。とりあえず家はどこかな?遠いなら送っていくから、帰ってもらってらいいかな?」

「うーん。ごめん。それは無理なんだよねー。」
と彼…千秋くんは申し訳なさそうにする。

「無理って?」
え、もしかして、家出?私家出少年拾っちゃったの?

拾うのは2年前に拾ってきた、もなか(うちの同居猫)だけにしようよ。もなかだけでも手一杯だよ。

「カプセル開けちゃたら、もう俺帰れないんだ。」

「カプセル…」

千秋くんを良く見ると、昨日最後にやったガチャの人形に良く似てる。茶髪にパッチリお目目の可愛い顔の男の子。
「そう。昨日、奏さん、俺のガチャ引いてくれたでしょ?
カプセル開けたら返品不可だから。
もしかしたら、奏さん、俺の事気に入らない?捨てちゃうの?」
千秋くんの大きな目がうるうるしている。

こんな状況なのに可愛いと思ってしまう自分が恨めしい。

「ちょっと整理させて。千秋くんは、昨日のガチャの男の子だって言うの?」

「簡単に言うとそうだね~」

これはヤバイ。この子ヤバイ。人形が人になるなんて、んな訳ない。
もしかしたら昨日、私がガチャ引くの見てて、私を騙そうとしてる?

でも、何の為に?
なんかの詐欺?私、お金ないけど?

でも、手が込みすぎてない?
その労力に見合うメリットなくない?

あ、もしかしたらテレビ番組?モニタ◯◯◯みたいな。ドッキリ?ドッキリだよね。誰かそう言って。
あ、でもこの散らかった部屋を全国放送されるの困る。
絶対カットしてもらわなきゃ。

頭はフル回転だけど、どの考えも馬鹿馬鹿しい。もうどうしたら良いかわからない。


「ねぇ、ねぇ、奏さん。お腹すかない?俺、なんか作ろうか?」

へぇ~イケメンの上に料理も出来るんだぁ~って感心してる場合じゃない。

でも、正直な私のお腹が否定の言葉より先に鳴ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 完結まで執筆済み、毎日更新 もう少しだけお付き合いください 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

離れた途端に「戻ってこい」と言われても困ります

ネコ
恋愛
田舎貴族の令嬢エミリーは名門伯爵家に嫁ぎ、必死に家を切り盛りしてきた。だが夫は領外の華やかな令嬢に夢中で「お前は暗くて重荷だ」と追い出し同然に離縁。辛さに耐えかね故郷へ帰ると、なぜかしばらくしてから「助けてくれ」「戻ってくれ」と必死の嘆願が届く。すみませんが、そちらの都合に付き合うつもりはもうありません。

王太子妃よりも王弟殿下の秘書の方が性に合いますので

ネコ
恋愛
公爵令嬢シルヴィアは、王太子から強引に婚約を求められ受け入れるも、政務も公務も押し付けられ、さらに彼が侍女との不倫を隠そうともしないことにうんざり。まさに形だけの婚約だった。ある日、王弟殿下の補佐を手伝うよう命じられたシルヴィアは、彼の誠実な人柄に触れて新たな生き方を見出す。ついに堪忍袋の緒が切れたシルヴィアは王太子に婚約破棄を宣言。二度と振り返ることなく、自らの才能を存分に活かす道を選ぶのだった。

処理中です...