旦那様は転生者!

初瀬 叶

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73話

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「お帰りなさいませ!ご主人様!」
私が元気よく挨拶すると、ハヤトは固まった。



あの後私は結局、店長のお友達のお部屋へと引っ越しをした。
ハヤトは大学生。勉学が本分だ。
私と暮らす事でハヤトの邪魔をしたくない。
ハヤトは随分と渋っていたが、チアキから、
『一緒に暮らすより、カレカノとして待ち合わせデートしたり、会えない時間にお互いを想ったり、寝落ち通話したり……そんな付き合いの方がいつまでも新鮮で良いんじゃない?』
と言われ、『いや、何十年も離れてたけど?』と文句を言いながらも、
『結婚したら嫌でも一緒に居れるんだから』というチアキに押しきられて最後は頷いてくれた。


私とハヤトは晴れて恋人になった。
しかし…恋人って何をしたら良いのか……私には全く想像もつかなかった。

恋……はハヤトを好きだと思う気持ちなので理解出来た。
しかし、私は今までデートもした事なければ、誰かとお付き合いするという経験も初めてだ。
チアキからは、
『お兄ちゃんもそんなに経験なさそうだから、堅苦しく考えなくて良いんじゃない?』と笑われた。
どうにもこうにも埒があかず、相談した店長には、
『マイラちゃんが、したい事をしたい様にしたら良いんだよ。会いたいな…と思えばそれを伝えたら良いし、声が聞きたいなって思えば、連絡を取れば良い。相手がいる事だから、全部が全部、自分の意見を押し通す事は出来ないけど、そのもどかしさすら、愛しいと思えるようになるから』
と言われ、少しだけ気分が楽になった。

私とハヤトは『夫婦』から『恋人』へ。
普通は逆だと思うけど、私達は元々の出会いが普通ではない。そう思えば、これで合っている様にも思う。

メイド姿の私を見て、ハヤトは少し顔を赤くしながら

「か……かわいい」
と小さく呟いた。

今日は私の働いているお店にハヤトが来る日。
1度私の働く姿を見て欲しいという私の願いを叶えてくれた。

私はいつもの様にハヤトへも接客をする。
もちろんそこには他のお客様もいらっしゃる訳で、

「河合様、今日もありがとうございます」

「マイラちゃん、今日も可愛いね。今日は……そうだなぁ、やっぱりオムライスにしよう」

「はい!今日は何の絵にしますか?」

「この前ウサギを描いてもらったし……今日はでっかいハートにして貰おうかな?」

「では、私から河合様への感謝を込めて大きなハートを描かせていただきますね!」

そんなやり取りをジッと見つめる視線が痛い。
振り返らなくても分かる。……ハヤトだろう。

私がオムライスを運んで、大きなハートをケチャップで描いていると、河合様が小さな声で、

「何か、めちゃくちゃ俺を見てくるお客さんがいるんだけど……」
と私に尋ねてきた。……ハヤト……河合様に穴が開いちゃうわ。

「あの方、このお店初めてなんです。慣れないせいで少し緊張なさっているようで……」
と私が笑顔で誤魔化せば、河合様は、

「そっか……緊張……」
とどこか腑に落ちない様な表情で頷いた。
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