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66話
しおりを挟む「私を……?」
「あぁ。あれからずっと、ずっと捜してた。
あの山から、川が流れ着く海、そして隣国まで。
君が居なくなったという現実は俺にとって、とても受け入れがたいものだったんだ」
そう言うハヤトの目は心なしか潤んでいるように見えた。
私は、
「ごめんなさい。貴方がそんなに心配をしてくれているとは、思ってもみなかった。私はあの時、貴方を助けたい一心で」
「俺がもっとよく考えていれば……と何度も思ったよ。君の手を離さなければ良かったともね。でも俺が生きていれば、いつの日か君にまた会えるんじゃないかって……」
と言うハヤトの手を私はそっと握った。
「会えたわ。こうして。違う世界でも、ちゃんと貴方に会えた」
と言う私の目に涙が溢れた。
「まさか……俺の世界に君が転移しているなんて」
と言葉に詰まるハヤトに、私はふと疑問に思った事を口にする。
「ねぇ。私はきっとあの世界での存在が消えて…この世界に来たと思うの。でも……ハヤトは?ハヤトもあちらの世界で……」
死んでしまったの?という言葉はどうしても言いたくなかった。
すると、
「いや。あちらの世界で俺はもう60歳ぐらいにはなってたと思うんだ。最近は体のあちこちにガタは来ていたが、死んではない……と思う。この世界に帰って来る前は確かに高熱が出て……床に臥せっていたけど」
というハヤトの言葉に、私の頭の中に恐ろしい考えが浮かぶ。
「ハヤト!ちょっと、ちょっと待ってて!!」
と私は震える手でスマホを取り出すと、ある番号へと電話をかけた。
「さ、さきさん?!ごめんなさい、急に。まさかとは思うけど、あの漫画の続きを描いてる?!!」
と私は向こうの言葉も聞かず、一気に自分の用件を捲し立てた。
スマホの向こうから、戸惑ったようなさきさんの声が聞こえる。
『えっと…まいちゃん?あ、そうなの。あの後、続きを描いてみようかなぁ~なんて思って。数十年後…みたいな形で描き始めたの』
「!!!もしかして…殿下いえ、フェルナンド元殿下は病気で亡くなるとか、そんな結末を考えてない?」
『あら、良く分かったわね。今、ちょうどその場面を描き始めた所。ベッドの上でフェルナンドはマイラへの謝罪を口にしながら、死んで……』
とサラりと言うさきさんに、私は、
「ダメ!!!!絶対にダメ!!フェルナンド殿下を殺さないで!死ぬなら老衰で!そしてそれまでは幸せな人生を歩ませて欲しいの!」
と懇願する。
私の推測が正しければ……ハヤトと殿下は再び入れ替わったのだ。で、あれば殿下は向こうで既に終末を迎えようとしているという事だ。
それは流石に殿下が可哀想過ぎる。昔の私なら、彼がどうなろうと心を痛める事はなかったかもしれないが、この世界で過ごす内に、情は湧いていた。
死ぬためにあちらに戻る……というのはあんまりだ。
私の勢いに押され、
『え……あ、うん……分かった。分かったけど…やっぱりまいちゃんってフェルナンド推しなんだ』
とさきさんは困惑した様にそう言った。
この際、誰推しだって構わない。すると、さきさんは続けて、
『じゃあ…マイラも生きていた事にしちゃう?で、フェルナンドと仲直りして……』
などと言うではないか。それは困る!
「ちょっと待って!!私……じゃなかったマイラはもう亡くなったままで構わないから!フェルナンド殿下だけ!ね、お願い!」
と私は自分があちらの世界に復活しないよう、重ねてさきさんにお願いをした。
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