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65話
しおりを挟む直ぐに洗面所から飛び出してきた殿下は、私の肩を掴んで改めて顔をじっくりと見ている。
そしてもう1度私を抱き締めた。今度は壊れ物を扱う様にそっと。
私は唖然としたまま固まってしまう。明らかに殿下がおかしい。
殿下は私を抱き締めたまま、
「マイラ……俺だよ、ハヤトだ。会いたかった。良かった……生きててくれて。ありがとう……生きててくれて」
と私の名前を噛み締めるように声にした後、私にお礼を言った。
え?ハヤト??ハヤトってハヤト?
殿下の悪い冗談ではなくて?って言うか、殿下が冗談なんて…そんなの聞いたこともない。……ということは、
「ハヤト?本当に……ハヤトなの?」
と私は彼の腕の中でそう尋ねた。
私はもう1度部屋に戻りテーブルの前に座ってハヤトと向かい合った。
荷物は玄関に置いたままで。
私とハヤトはお互い、馬車が襲われたあの夜の後について話をした。
ハヤトはあの後、リオン様へ話をしに行ったのだそうだ。
その勇気が出たのは、私が居なくなった事が切っ掛けだったとハヤトは話す。
「マイラとはぐれて俺は決めたんだ。あの世界に行った時には、とにかく何とか生き延びる……それが目的だった。だけど、君は居なくなった。俺は俺の命を優先して君を……犠牲にした」
「ハヤト、それは違うわ。ハヤトはちゃんと一緒に逃げようとしてくれていたじゃない。あれは私の独断よ」
「それでも!君が俺を助ける為に犠牲になった事に変わりはない。俺は、ハロルドを許す事は、もう出来ないと思ったんだ」
ハヤトの話は続く。
「その後、リオンにハロルドの悪事を暴きに行った。最初は信用してもらえなかったよ。だけど、彼は自分の出自に前々から疑問を抱いていた。それを話した時、彼は俺に協力してくれる事を約束したんだ」
その後の話は私がさきさんの漫画で読んだ通りだった。
「俺は『なんちゃって王太子』だ。貴族の振る舞いも出来なければ、その為の教育など受けてない。それに反してリオンはハロルドが元々王太子にしたくて、そういう教育を施されてきた人物。どっちが国の為になるかなんて、考えなくてもわかるだろ?だから、俺はリオンに王太子の資格を譲った。ハロルドもエレーヌも……処罰を受けた後だがな」
「そうだったの……。大変だったのね」
「結局……3年も掛かってしまったが、なんとかリオンを王太子……いや、国王にする事が出来たし、俺は離宮へと引っ込んだ。その方が都合が良かったんだ……君を捜すのに」
とハヤトは俯いた。
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