旦那様は転生者!

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
65 / 75

65話

しおりを挟む

直ぐに洗面所から飛び出してきた殿下は、私の肩を掴んで改めて顔をじっくりと見ている。
そしてもう1度私を抱き締めた。今度は壊れ物を扱う様にそっと。

私は唖然としたまま固まってしまう。明らかに殿下がおかしい。

殿下は私を抱き締めたまま、

「マイラ……俺だよ、ハヤトだ。会いたかった。良かった……生きててくれて。ありがとう……生きててくれて」
と私の名前を噛み締めるように声にした後、私にお礼を言った。

え?ハヤト??ハヤトってハヤト?
殿下の悪い冗談ではなくて?って言うか、殿下が冗談なんて…そんなの聞いたこともない。……ということは、

「ハヤト?本当に……ハヤトなの?」
と私は彼の腕の中でそう尋ねた。



私はもう1度部屋に戻りテーブルの前に座ってハヤトと向かい合った。
荷物は玄関に置いたままで。

私とハヤトはお互い、馬車が襲われたあの夜の後について話をした。
ハヤトはあの後、リオン様へ話をしに行ったのだそうだ。
その勇気が出たのは、私が居なくなった事が切っ掛けだったとハヤトは話す。

「マイラとはぐれて俺は決めたんだ。あの世界に行った時には、とにかく何とか生き延びる……それが目的だった。だけど、君は居なくなった。俺は俺の命を優先して君を……犠牲にした」

「ハヤト、それは違うわ。ハヤトはちゃんと一緒に逃げようとしてくれていたじゃない。あれは私の独断よ」

「それでも!君が俺を助ける為に犠牲になった事に変わりはない。俺は、ハロルドを許す事は、もう出来ないと思ったんだ」

ハヤトの話は続く。

「その後、リオンにハロルドの悪事を暴きに行った。最初は信用してもらえなかったよ。だけど、彼は自分の出自に前々から疑問を抱いていた。それを話した時、彼は俺に協力してくれる事を約束したんだ」

その後の話は私がさきさんの漫画で読んだ通りだった。

「俺は『なんちゃって王太子』だ。貴族の振る舞いも出来なければ、その為の教育など受けてない。それに反してリオンはハロルドが元々王太子にしたくて、そういう教育を施されてきた人物。どっちが国の為になるかなんて、考えなくてもわかるだろ?だから、俺はリオンに王太子の資格を譲った。ハロルドもエレーヌも……処罰を受けた後だがな」

「そうだったの……。大変だったのね」

「結局……3年も掛かってしまったが、なんとかリオンを王太子……いや、国王にする事が出来たし、俺は離宮へと引っ込んだ。その方が都合が良かったんだ……君を捜すのに」
とハヤトは俯いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】〝終の山〟と呼ばれた場所を誰もが行きたくなる〝最高の休憩所〟としたエレナは幸せになりました。

まりぃべる
恋愛
川上エレナは、介護老人福祉施設の臨時職員であったが不慮の事故により命を落とした。 けれど目覚めて見るとそこは、全く違う場所。 そこはお年寄りが身を寄せ合って住んでいた。世間からは〝終の山〟と言われていた場所で、普段は街の人から避けられている場所だという。 助けてもらったエレナは、この世界での人達と関わる内に、思う事が出てきて皆の反対を押し切って、その領地を治めている領主に苦言を呈しに行ってしまう。その領主は意外にも理解ある人で、終の山は少しずつ変わっていく。 そんなお話。 ☆話の展開上、差別的に聞こえる言葉が一部あるかもしれませんが、気分が悪くならないような物語となるよう心構えているつもりです。 ☆現実世界にも似たような名前、地域、単語などがありますが関係はありません。 ☆勝手に言葉や単語を作っているものもあります。なるべく、現実世界にもある単語や言葉で理解していただけるように作っているつもりです。 ☆専門的な話や知識もありますが、まりぃべるは(多少調べてはいますが)全く分からず装飾している部分も多々あります。現実世界とはちょっと違う物語としてみていただけると幸いです。 ☆まりぃべるの世界観です。そのように楽しんでいただけると幸いです。 ☆全29話です。書き上げてますので、更新時間はバラバラですが随時更新していく予定です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

作られた悪役令嬢

白羽鳥(扇つくも)
恋愛
血塗られたエリザベス――胸に赤い薔薇の痣を持って生まれた公爵令嬢は、王太子の妃となる神託を受けた。 けれど王太子が選んだのは、同じく胸に痣のある異世界の少女。 嫉妬に狂ったエリザベスは少女を斧で襲い、王太子の怒りを買ってしまう。 罰として与えられたのは、呪いの刻印と化け物と呼ばれる伯爵との結婚。 それは世界一美しい姿をした、世界一醜い女の物語――だと思われていたが……? ※作中に登場する名前が偶然禁止ワードに引っ掛かったため、工夫を入れてます。 ※第14回恋愛小説大賞応募作品です。3月からは不定期更新になります。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...