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60話
しおりを挟む「え?やっぱり2人はマイラ推し?」
と、さきさんは目を白黒させた。
「いえ、そういう訳では……」
と私は言葉を濁して、先を読み進めた。
マイラ(私)は此処で退場。殿下は命からがら、その山から逃げ出すと、殿下付きで数少ない味方であるサミュエルを見つけ、その危機を脱するのだった。
その後、殿下とリオン様は2人で協力しハロルド様と、エレーヌ様の企みを暴いていく。リオン様は自分の生い立ちの秘密を知り悩み苦しむが、それでも自分の実の父の悪事を暴き、国を正しい方へと導く為に東奔西走するのだ。その姿は……まさしく主人公。これでは原作の『復讐の天使』のファンには不評であろう事は容易に想像出来た。だってエレーヌ様はすっかり悪者だもの。
そしてその後、殿下は王太子の座を自分には相応しくないとリオン様に譲る。最初はそれを固辞していたリオン様も、紆余曲折の後国王になり、幼馴染みと結婚してハッピーエンド。……となっていた。
私は思わずその漫画を抱き締める。
ー生きてたー
私が命掛けで助けたハヤトは生きてくれていたのだ。
私はそれだけで胸が一杯になる程嬉しかった。
そんな私の様子をさきさんは不思議そうに見つめると、
「そんなに……感動してくれたの?泣くほど?」
と呟いた。
私は無意識に涙を流していたようだ。私は胸からその漫画を離し表紙を撫でた。
グッと涙を拭うと、
「フェルナンド殿下は……リオン様に王太子を譲った後……どうされたのでしょう?」
と私はさきさんに質問してみた。
リオン様に王太子の座を譲った後の殿下の…ハヤトの様子がこの漫画には全く触れられていなかった。そう……この漫画においてフェルナンド殿下も私マイラと同様に退場した後の事など描く必要もない程の取るに足らない存在でしかない。
しかし、私は気になった。ここに描かれてはいないが、殿下が……ハヤトがどんな人生を送ったのかを。
「え?確かに何にも考えてなかったなぁ。離宮に引っ込んだって所までは……ほらここに書いたでしょう?」
とさきさんは私からその漫画を受けとると、パラパラとページを捲る。
リオンが王太子に任命されたページに3行だけ…たった3行だけ殿下について書かれていた。
『フェルナンドは自分の役目を終えたとばかりにリオンの立太子式を見守ると、王位継承権を破棄し、離宮へと移り住んだ』
私はその3行を、まるでそこにハヤトが居る事を確認するかのように、無言で見つめてしまった。
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