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52話
しおりを挟む結局…漫画の結末を聞けなかったな…そう思いながら帰宅すると、玄関の扉を開ける前から良い匂いがした。
…殿下が帰って来ているようだ。
私は普段通りに、
「ただいま帰りました」
と鍵を開けて扉を開く。
「ーおかえり」
殿下の声が厨房から聞こえた。
私は、
「今日はハンバーグですか?美味しそうですね」
とテーブルに置かれた夕食を見て笑顔を見せた。
殿下はそれに答える事なく、無言で夕食の支度を続ける。
私はそれを横目に洗面所で手を洗い、うがいをする。
この世界はとても空気が悪い。この作業をしなければ、喉の違和感を感じてしまうようになった。
部屋着に着替えて、夕食の用意されたテーブルに向かう。
狭いテーブルだ、向かい合う殿下との距離も近い。
殿下はやや俯き加減で、未だ言葉を発していない。
私だって、『何処に行っていたのか?』とか『既読無視はないだろう』とか言いたい事は山ほどあったが、それには触れず、
「いただきます」
と手を合わせて殿下の作った、ハンバーグにナイフとフォークを入れた。
どうも箸という物は苦手だ。少しずつ持ち方、使い方を練習しているが、なかなか慣れない。それは殿下も同じだった。
「美味しい!」
私は思わず口に出す。殿下の料理の腕はグングンと上達している。私との差は開く一方だ。なんだか悔しい。
私は笑顔で食事を食べ進めるも、殿下は俯いたまま、一向にハンバーグに手を付けない。
「料理、冷めますよ?折角美味しいのに」
そう私が声をかけると、殿下は
「マイラ。今までの事、本当にすまなかった。君にはずっと辛い想いをさせていた事、私は気づいてもいなかったんだ。それは…いや、言い訳は辞めよう。とにかく…悪かった」
いつもの『お前』が『君』に変わってる。こんな風にちゃんと面と向かって謝られたのは、初めてかもしれない。
私はフォークを置いて、
「殿下、謝罪をお受けします。今まで殿下にされた仕打ちを無かった事には出来かねますが、もう怒っていません。この世界で、私達は助け合って生きていかねばなりません。もうその事について口に出す事は、今日で辞めにしましょう」
と殿下に言って微笑んだ。
私としてはここら辺が落とし所だと思っていた。
殿下は顔を上げ、
「じ、じゃあ許してくれるのか?」
と私にすがるような目を向ける。
「…申し訳ありませんが、許す…事は難しいかもしれませんね。でも、それを恨んで生きる程ではありませんから。今は私もこの世界で生きる事に必死で。だから、もう口に出すのは辞めましょう。過去を振り返るより、前を向いて生きていきたいのです」
少しだけ自信をつけた私は、殿下の目を真っ直ぐに見てそう答えていた。
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