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51話
しおりを挟む「何?どうしたの?暗い顔して」
チアキが私を見て驚いたような顔をした。
チアキと会うのは1週間ぶり。
「いえ…。店長に自己肯定感が低いと言われましたが、その通りだな…と思って」
と私はチアキに答えた。
「漫画の中のマイラちゃんってさ、ツンツンしてて、いつも怒った様な顔でさ。エレーヌにもきつく当たるし、使用人や王宮の人達にも高飛車で、結構嫌な奴だったわけよ」
いつの間にか、私を『マイラちゃん』と呼ぶようになったチアキが漫画の話を始めた。
私がその話に黙って耳を傾けていると、
「エレーヌが主人公の漫画だし、マイラちゃんが悪者っぽく描かれるのも、仕方ない事なんだけど、こうしてマイラちゃんの事を知るとさ…あんな風にしていないと、心が折れちゃって、王太子妃なんて務まらなかったんじゃないかなって思うようになったんだ」
とチアキは続けた。
「…王宮では隙を見せれば直ぐ足元を掬われかねません。そうならない様に気を張って生きていたのは事実です。
その上で公務さえしっかりやっていれば良いと思っていたのですが、周りからは冷たく厳しく…そして憐れな王太子妃だと見られる結果になりました」
「本当のマイラちゃんが、真面目で優しい人だって今の私には分かるけど、漫画なんて主人公目線で描かれるからね~。そうやって迫害を受けていたら、卑屈になるのも頷けるし。でも、このお店ではマイラちゃん、大人気なんだし、もっと自信持ってよ!」
とチアキは私の背中をポンと軽く叩いて笑顔を見せた。
「そう言って貰えると…少し自信がつきます」
そう言って、私はある事を思い出した。
「ねぇ、チアキ。あの漫画…『復讐の天使』でしたっけ?あの漫画の結末ってどうなっているのでしょう?」
私は疑問に思っていた事をチアキに訊ねた。
「あ~!あれね。あの漫画、実は…」
とチアキが口を開いた時、
「千秋~マイラちゃ~ん、そろそろ休憩終わるよ~」
と他のメイドの子が休憩室へ入って来た。
「あ、ごめん!今行く!」
とチアキがその子に答える。
私も、
「すみません!直ぐに参ります」
と謝罪して、チアキの後を付いて部屋を出た。
メイド喫茶の仕事は意外と楽しかった。
色んなお客様がいらっしゃるので、色んなお話を聞く事が出来る。
「今日、給料日だったんだ~!」
と言って、私に河合様は花束を差し出した。
メイドに個人的なプレゼントはNGだが、店に飾る花のプレゼントは受け取っても良い事になっている。
「とっても綺麗です!ありがとうございます!」
私も笑顔で受け取ると、河合様は、
「マイラちゃんは笑顔が良いよね!癒されるよ」
と言って、彼も笑顔を返してくれた。
王太子妃として働いていた時には国民の為だと思っていたが、誰か1人をこうして笑顔にする方が、何十倍も満足できるのだと、私はここで働いてから知ることが出来た。
少しはチアキが言うように自信を持っても良いのかもしれない。
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