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44話
しおりを挟む翌日。
「これは…何だ?」
「目玉焼き?です…多分」
殿下はかなり黒く焦げた、元は卵であった物を見つめている。
一応、厨房の使い方については一通りチアキに聞いた。
昨日チアキが買って来てくれた食材を見て、朝食として自分で作れそうな物をスマホとやらを使って調べてみたのだが…食材もある、厨房も使える。
…しかしそこには技術が伴っていなかった。
「これを私に食べろと?」
「食べられる物で作っているので、死ぬことはありません…多分」
今まで料理などやった事がないのだ。そんな目くじらを立てる必要などないじゃないか。
殿下はその黒焦げの物を恐る恐る口にする。
「…苦っ!」
と顔をしかめるが、吐き出す事はなかった。
「そんなに嫌なら食べなくても良いです!そちらのパンだけ食べて下さい!」
と私が皿を取り上げようとするも、
「馬鹿! 勿体ない!チアキが折角買って来てくれた物だろう?私も食べるから、お前も食べろ。…それでお相子だ」
と殿下はその黒焦げの卵とパンをモシャモシャと食べていく。
相子ってなんだよ。
私も、自分用に作った物を食べる。
「苦い…!」
とつい自分も呟く程に…不味い。
チラリと殿下を見ると、既に皿の上には何もなかった。一応全部食べてくれたようだ。我慢強い所もあるのだと感心した。
殿下は、
「じゃあ、支度して…その大学とやらに行ってくる。…しかし…あの女、地図を書くのが下手過ぎるだろ?!」
と昨日、チアキが書いてくれた地図を眺める。
スマホを使えば、道に迷わないと言われたのだが、スマホの使い方に迷ってしまいそうだから…と念のため地図を書いてもらった。
殿下は支度して、玄関へと向かう。
見送る為に後ろを付いていく私に、
「じゃあ…行ってくる。鍵はお前が持って行くんだな?」
と声をかけた。
「はい。近くで合鍵を作って貰える場所があるそうなので、そちらに行ってきます。
チアキの大学の授業が終われば、バイトを紹介していただけるらしいので、その連絡を待ちます」
と私が答えれば、
「そうか…気をつけて。じゃあ…」
と殿下は扉を開けた。
「行ってらっしゃいませ」
と声を描ける私に、
「……お前に見送られるなんて…初めてだな」
と殿下はポツリと呟いて、外へと出掛けて行った。
扉が閉まる。
私は、殿下の今の言葉を思い出し…
「当たり前じゃない!今までは私と顔も合わせなかったんだから。誰のせいだと思ってるのかしら?!」
とつい憤りを隠せずに、文句が口をついて出てしまう。
ここでは力を合わせて暮らしていくしかないが、私が殿下を許す事はない。
それこそ当たり前だ。
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