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40話
しおりを挟む「ハヤトはきっと生きてる。生き抜いてくれる。私はそう信じています。
ハヤトがこちらの世界に帰って来れるのか…その手段も、その条件も私にはわからないけれど、ハヤトは死なない」
私はチアキの手を自分の両手で握りしめて、彼女の目を見て力強く言った。
なんの根拠もない話。でも私には何故か自信があった。
ハヤトが死ぬわけがない。
だって、既に私が死んだ事でハヤトから聞いていた漫画のストーリーとは変わっているのだから。
チアキは、
「…お兄ちゃん…悪運だけは強いの。だから…私も信じる」
と少し笑った。
心配するのは当然だ。無理をしているのは分かってる。でも今は信じるしかないのだ。
私はとにかく此処で暮らしていく術をこのチアキから伝授して貰わねばならない。
チラリと私は殿下を見る。
私とチアキが話している間、何にも言わず黙って話を聞いているだけ。
この世界に来て3日。何もせずこの部屋に閉じ籠っていた殿下。
…彼にこの世界の事を訊いても…何も得るものはあるまい。
私はチアキからこの世界について、そしてどうやって生活をしていけば良いか、事細かく聞いていった。
「マイラさん…本当に此処で…あの男と暮らすの?」
『あの男』の所を小声で私の耳元で囁くようにチアキは言った。
「ええ。お金もありませんし、此処しか暮らす場所はなさそうですから」
「ごめんね。私が寮暮らしだから…」
チアキは今19歳。ハヤトとは違う大学に通っているらしく、彼女は運動部で頑張っているらしい。
その運動部に所属している生徒は基本『寮』と呼ばれる場所で共同生活をしているのだそうだ。
「大丈夫です。頑張って働いて、いつかここを出ていくので」
と私が言えば、ここで初めて、
「で、出ていく必要はないだろう!私達は夫婦なのだから、一緒に暮らしたって問題はない!」
と殿下が口を挟む。
私は、
「何をおっしゃっているのです?散々、私と一緒に居るのを嫌がって、離宮でお暮らしになっていらっしゃったではありませんか?
此処で一緒に暮らすのは『仕方なく』です。それ以上でもそれ以下でも御座いません」
と私が言えば、殿下は、
「あ、あれは!仕方なかったんだ!ハロルドが…ハロルドがお前に冷たくしろと…」
と狼狽えた様に言った。
は?どういう事?
「え?マイラさんと貴方って仲悪いんでしょう?」
とチアキも不思議そうに言う。
「ち、違う!私はハロルドに相談して…それで…マイラの気持ちを私に向けるには、冷たくしろと。そしてマイラに追いかけて貰える男になれと…」
と殿下は俯きながらそう言った。
はぁ??ますます意味が分からないのだけど?
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