34 / 75
34話
しおりを挟む「…おい。大丈夫か?」
誰かが私の顔を覗き込んでいる気配がする。
腕を動かそうにも、節々が痛い。
痛みを感じる…という事は…私、生きているのかしら?
私はゆっくり瞼を開こうと努力する。
ずっと暗闇にいた私は眩しさに顔をしかめた。
少しずつ明るさに慣れてきた…。私はしっかりと目を開く。
そして私を覗き込んでいる顔を見る。
………誰?!!
私は驚いて体を急いで起こそうとするも、体が痛くて思うように動かせなかった。
「痛っ…」
と私が小さく呻くと、
「だ、大丈夫か?急に動くな。お前は倒れていたんだから。…マイラ」
私を覗き込んでいる黒い瞳に黒髪の男性はそう言った。
聞き間違い?いや、確かにこの男性は私の名を呼んだ『マイラ』と。
私は起き上がる事を諦めて、
「貴方は…誰?何故私の名を?」
と少し掠れた声でその男性に言った。
私は目の前の男性に見覚えがない。
私の国ではあまり見かけないタイプの顔だ。イーストザルト王国の出身なのだろうか?
少しのっぺりとした顔は、イーストザルト王国には多いと聞く。
「何を言ってるんだ。当たり前だろう。
私は君の夫なんだから」
と目の前の見知らぬ男性はそう答える。
……?空耳かしら?おっと?夫?それとも似たような別の言葉?
私が瞬きを繰り返していると、その男性は続けて、
「部屋の前にお前が倒れていた。しかも泥だらけで。
仕方ないから部屋に入れたが、ドレスは汚いから捨てたぞ」
と言う。
私は慌てて自分に掛かっているシーツを捲り、
「ギャッ!」
と叫ぶ。
自分が下着姿なのに驚いた。この男がドレスを脱がせたという事か!
私はもう一度シーツでしっかり私の体を隠すと、
「何と無礼な!私は…」
と自分が王太子妃である事を告げようとして止めた。
この男が敵か味方か未だ判断出来ない。
安易に自分の正体を明かす事は命取りだ。
私のその気持ちが表情に出ていたのか、私は無意識にその男を睨んでいたらしい。
その男は私の視線を受け、
「に、睨むなよ。今さら下着姿なんて…どうでも良いだろ。夫婦なんだし。
それに、そのまま外に放って置けば良かったって言うのか!?泥だらけのドレスを着た婦人なんて…結構重たいんだぞ!」
とその男は拗ねたように言った。
重い?!
「失礼な!私は然程重たくありません!!」
つい好戦的な物言いになるのは許してほしい。
だって乙女心が傷ついたのだから。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
909
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる