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32話
しおりを挟む「マイラ、おかしい。従者や侍女の乗った馬車が来てない」
ハヤトは馬車の後ろの窓から覗くと私にそう言った。
「先行していた筈の馬車もありません」
私も横の窓から覗いて答えた。
私達2人は大きく頷くと、窓を閉め馬車の入り口の鍵を閉めた。
「…嵌められたか…」
ハヤトが小さな声で私に言う。
外は雨音で他の音が聞こえない。逆に不気味だ。
「護衛も全て敵なのでしょうか?」
私も小さな声で答える。
外には聞こえていない筈だが、どうしても小声になってしまうのだ。
「…わからないけど、その可能性は高いだろ。だから、こんな所に俺達を置き去りにしたんだ」
護衛の気配を感じない。馬は繋がれているようだが、この雨と雷では無理に馬車を動かすのも危険だろう。
「これからどうするつもりでしょう?」
このまま置き去りにするだけで済むとは思えない。
その言葉を発したすぐ後、
「殿下!妃殿下!大丈夫ですか?」
と扉を激しく叩く音がした。
私とハヤトは顔を見合わせる。敵か?味方か?
判断がつかず黙っていると、
「他の護衛はどこへ消えたのでしょうか?」
とその声は言った。
私は思わず、
「わからないの!貴方は…誰?どうして此処へ?」
とその声に答えた。
「私は従者の馬車に付いていた者です。後ろから来ている筈の殿下の馬車を見失ってしまったので、私だけ引き返して来ました!何故こんな場所で…」
とその声は困惑を隠せないようにそう言った。
味方かもしれない。そう思い私達が馬車の扉を開けようとした瞬間、
「う、うわぁ!!!」
とその声が絶叫する。
ハヤトは今、まさに開けようとしていた扉から手を離す。
私は震える声で、
「か、彼は…」
と言った途端、バリッ!バリバリッ!!と馬車の扉を何かで壊す音が聞こえた。
「ダメだ!敵が来た!」
とハヤトが叫んで、私を抱き寄せる。
「ハヤト、馬車に居ても時間の問題だわ…此処を出ましょう」
私が決心したように言う。
王族の馬車はかなり丈夫に作られているが、このままでは殺られてしまうだろう。
「出る?どうやって?」
訊ねるハヤトに、私は馬車の床に貼られた絨毯を引き剥がす。すると底には小さな取っ手のついた扉が現れた。
「危険が迫った時に、ここから逃げれるようになっています。この出入口を知るのは王族のみ。此処から外へ。
しかし、周りを取り囲まれていたら…終わりです。でも、さっきこの馬車の停まっている場所を確認しましたが、扉の反対側は…崖のようになっていました。慎重に降りれば…命は助かるかもしれません」
「賭けだな」
しかし、考えている間にも、バキバキと扉を壊す音が聞こえる。躊躇っている時間はない。
ハヤトは、
「よし、行こう!」
そう言うとその扉の取っ手を引っ張り上げた。
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