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20話
しおりを挟むそうしていると、
「お前達、そんな所で何をしている?」
と殿下が戻って来た。
晴れ晴れとした顔をしている。…上手くいったのかしら?
すると、エレーヌ様が涙ながらに殿下に駆け寄り、『フェルナンド様~』と、その腕に触れようとした。
が、その時、殿下はそれをスルリと躱す。
エレーヌ様は思わぬ事によろけてしまうも、殿下はそれを無視して私の元へと来た。
「殿下、お帰りなさいませ」
と挨拶する私に殿下は近寄り耳元で、
「上手くいった。安心しろ」
と小声で囁くと、今度は普通の声で、
「さて…何を揉めていたのかは知らないけど、俺は忙しいんだ。…マイラ、君は一緒に来てくれ」
と私を連れて執務室へと入っていった。
私は執務室へ入る直前、エレーヌ様を見やった。
その時のエレーヌ様の顔…。怖くて夢に出そうだわ。
「殿下、どうでした?」
と私は部屋に入るなり、殿下に訊ねる。
もちろんいつもの通り2人きりだ。
「上手くいったよ。案の定、ハロルド自らやって来ていた。数人の部下と共にな。君のお父上は依頼通り、荷の到着を遅くしてくれたよ。俺が現れた時のハロルドの驚いた顔!おかしかったなぁ~」
と殿下は思い出したように笑う。
「それで?」
私は話の先を急ぐ。
「ハロルドは何故俺があそこに居るのか訊ねて来たが、俺は素直に『エレーヌから密輸の情報を得たから確認に来た』と言った。
ハロルドはそんな事を言い出した俺に慌ててたよ。君の父上には秘密裏で荷を確認しようとしていたみたいだからな。
先に言ったから、俺の護衛が荷を出した。本来ならハロルドの部下がその荷に違法薬物を隠すつもりだったんだろうが、俺がぜーんぶ先に荷解きしてやったからな、あいつらは手を全く出せなかった」
殿下はハロルド様より先に王宮を出てしまうと、ハロルド様にバレる可能性があるからと、荷が届くのを遅らせるように出来ないかと私に依頼してきた。
どうにか上手くいってホッとする。
私のホッとした顔を見て、殿下は、
「さらに…だ。実はあの時、ハロルドの部下が違法薬物を持っている事を暴いたんだ。
漫画の知識を覚えてて良かったよ。だが、ハロルドはその部下をあっさりと見限った。君の父上を嵌めるつもりだったのか!とな。全ての罪をそいつに擦り付けて、直ぐ様そいつを牢に入れた。あいつから証言を取れると良いんだけど…」
と殿下は、考え込む。
私は、
「エレーヌ様が殿下に言った情報も、その…ハロルド様の部下から聞いた事にされてしまうのでしょうか?」
と訊ねる。
「うーん。そうなるかもなぁ…。だが、その男とエレーヌの関係を探っても、何にも出て来ないだろうし…無理があるんじゃないのかなぁ」
殿下はますます考え込んだ。
私は改めて、
「とにかく…殿下。父を助けて下さりありがとうございました。…私は殿下の言う事を信じる事にいたします。あまりに荒唐無稽なお話ですが…貴方の中身が、フェルナンド殿下ではない…それを信じる事に」
と殿下の目を見て言った。
「本当!?あ~良かった。君しか頼れる人が居ないから。俺が死ねば、困るのは君だ。俺達は運命共同体。これからは助け合っていこう!」
と殿下は私に手を差し出した。
私はその手をそっととり、握手を交わす。
そして殿下は、
「俺の名前は『ハヤト』だ。よろしく」
と笑顔で私に言った。
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