17 / 75
17話
しおりを挟む今朝もまた、私と殿下の登場に、食堂で働く者達の好奇な視線が刺さる。
きっと心の中は、(何で急に2人が?!)と疑問符で一杯だろう。
もちろん昨晩も私は寝台、殿下は長椅子で寝ていたし、シーツを替えるメイドには私と殿下の間に何もなかった事などお見通しなのだと思う。
しかし、流石、王族に仕える使用人だとでも言おうか、彼女達が全く無駄口を叩かないお陰で、私と殿下がそういう事をしているのでは?と勘ぐっている者も間違いなく居るようだ。
…例えば、私に付いている新人侍女2人の様に。
これはメリッサに聞いた話だ。
新しい侍女は朝、何故か夫婦の寝室に入ろうとしていたらしい。
メリッサが『それは貴女の仕事じゃないわ』と止めた為、諦めてくれたようだが、
メリッサは不思議がっていた。
私と殿下の仲を探っているのではないか。私は話を聞いてそう思ったのだが、メリッサには、『新人に目をかけてあげてね。何かあったら私に知らせて?』と言っておいた。
なんとか、彼女達を私から遠ざけたい。
私は殿下に呼び出され、彼の執務室へ居た。
またもや2人きり。
「マイラ、これ…教えてくんない?」
と私に書類を見せる。
「これは王太子殿下が治める領地の税に関わる書類ですね…あと、これは陳情書…」
殿下の言葉を借りるなら、彼は殿下ではないので、どうにも仕事が滞っていたらしい。
私は彼が絶対に目を通さなければならない書類と事務官に指示すれば良い書類、陛下に指示を貰わなければならない書類と、全てを分類していく。
そして彼がわからない事があれば答え、どうすれば良いかを指示していった。
…そう、単純に私の仕事が2倍になってしまったのだ。
「これでは、私自身の仕事が全く出来ません!」
と私が抗議をすれば、
「じゃあ、マイラの仕事もここに持って来て一緒にやろうよ!」
と殿下は能天気に答えた。
「私にも事務官が居るのです。その者も此処へ連れて来いと?」
「それでいいじゃん!夫婦なんだし、仲良く仕事しよう!俺の事務官とマイラの事務官、一緒に仕事して貰えばいいし」
…彼が別人だと言うのは、私以外に誰も知らない。いや…私もまだ半信半疑だけど。
なので、仕事も2人きり。
事務官は別室に居て、此処で処理した書類を持って行っているので、なかなか手間がかかる。
これでは仕事が滞るのも無理はなかった。
「殿下…これではいつもの半分しかこなせそうにありません」
と私が愚痴れば、
「でも、俺がフェルナンドじゃないなんて事を言ったって誰も信じない。少しずつ俺も仕事に慣れるから、もう少し…」
と殿下が言いかけたその時、
ノックの音がして、殿下の側近である、カインが、
「殿下、ロードスター公爵がおみえで御座いますが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
と声を掛けて来た。
思わず私と殿下は顔を見合わせた。
殿下からハロルド様が黒幕だと聞いてから、私は初めてハロルド様と相対する。
少し…緊張してしまいそうだ。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
905
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる