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真相・その④
しおりを挟む一方、ルーベンで密輸現場を摘発したフィリップにとって、その中にデルタ王国の武器がある事はアレックスの予想で聞いていたが、実際に目の当たりすると、ショックな出来事だった。
家臣である貴族の裏切りは、フィリップが自分の不甲斐なさを痛感するには充分な出来事だった。
しかし、このままで済ませる事は出来ない。
まずスミス伯爵を始めとする密輸に関わった貴族と、買収され検品に手心を加えた官僚。
違法薬物を取り扱った貴族と商人。
そして武器を横流ししていた軍事関係者を次々と逮捕した。
今回の密輸船にはウガロ伯爵も乗船していた為、アスガルド国王より許可を得て伯爵をデルタ王国で拘束した。
そして、自白剤を使い、黒幕であるマークにたどり着いたのである。
ウガロ伯爵とマークの繋がりを調べていたフィリップは、今回の事件を起こしたのがマークである事を予測していたが、実際、あまりの大物に、頭を抱えた。
国交問題になる事は誰の目にも明らかだったからだ。
マークの本当の目的は、デルタ王国を我が物にする事であった。
優れた技術も技術者も簡単には盗めない。ならば全てを手にいれようと考えた。
まずマークは、アスガルド王国の隣、砂漠の国ジオンに攻め入るつもりだった。
ジオンはデルタ王国とは軍事同盟国だが、ジオンは小さな国で、ジオンと開戦すれば、デルタ王国が加勢に入る事は間違いなかった。
そして防衛が手薄になったデルタ王国に攻め入るつもりだった。
しかしここで邪魔になるのはエリアル帝国の存在だ。
デルタに攻め込めば、エリアル帝国が出張って来る。
エリアル帝国は大国だ。流石にアスガルドの戦力では勝てない。
デルタとエリアルの同盟を壊す必要があった。フィリップを亡き者にした後、マークはそこで、ララベルを毒殺する予定だった。
そしてその罪を王妃であるアメリアに擦り付ける算段であった。
アメリアは現エリアル帝国の帝王、アーノルドの妹。アーノルドはアメリアを溺愛していた。
そこで、ララベル殺害の罪でアメリアを拘束するようアスガルドから要請し、その責任を取って国王にも退位を促し、ローガンを国王に据え、エリアル帝国との同盟を破棄させるつもりだった。
きっと、アメリアを溺愛するアーノルドはララベル殺害の罪があろうと、拘束には反対するだろう。
その上、ララベルの婚約者であったローガンに良い感情を持つことはない。
エリアル帝国は完全にデルタから手を引くだろうというのがマークの思惑だった。
マークはまずは、フィリップを亡き者にする計画を立てていたが、その計画を知らないテイラー侯爵が暗殺を画策してしかも失敗してしまった。
マークは自分の意に沿わぬ働きをしたテイラー侯爵を消す事にしたが、計画に綻びがでた今、デルタ王国を攻め入る計画を進めるべきでない事はわかっていた。
しかし、マークにはもう1つ誤算があった。ララベルが弟の役に立ちたいとマークの指示を待たずに機密情報を盗みだそうとしたのだ。
それを拘束したのは、ずっとララベルに疑いの目を向けていたローガンだった。
ララベルの捕縛は実は視察前だったが、その情報はマークにもたらされる事はなかった。
アレックスとレオナルド、ローガンは視察前には、マークの企みの大半を把握し、証拠を押さえつつあった。
ルーベンでの密輸現場を押さえる事で、ほぼ完全にマークの企みを潰す事が出来た。
可哀想なララベルは自分の愛する弟が自分を簡単に切り捨てようとした事を知り、心を病んだ。
数々の証拠と証人により、マークはアスガルド王国で拘束された。
テイラー侯爵も、マークもフィリップの優秀さが目立つお陰でそこばかりを警戒していて、ローガンという男を見誤っていた。
ローガンはフィリップより狡猾な男だ。
敵を出し抜く術に長けていたのだ。
ローガンを王太子に据えた所で、マークがデルタ王国を手中にする事など不可能であった。
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