とりあえず結婚してみますか?

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
71 / 97

体調不良

しおりを挟む

レオ様は朝早くに出発する。
昨日、ほぼ1日寝ていた私も、お見送りの為に早起きした。

「レオ様、こちらをお持ちいただけますか?」

私はこの日の為に刺繍したハンカチを手渡す。
ランバード家の家紋である鷲とレオ様をイメージして剣を刺繍したものだ。

「これは、レベッカが?」

「はい。視察にはご一緒できませんから、私の代わりに側に置いて下さいませ」

「ありがとう。肌身離さず持っておくよ」

「気を付けて行ってらっしゃいませ」

そう言って私は、自分から初めてレオ様に抱きついた。
結婚して約2ヶ月半…3週間も離れているのは初めてだから、やはり寂しさがある。

レオ様は私を優しく抱き締めると、

「レベッカも、体に気を付けて。留守を頼むよ」
そう言って、私の額に口付けをくれた。

私は馬に乗るレオ様の姿が小さくなるまで見送ると、邸の中に戻った。


さて、今日の午前中はフェルナンデスとお勉強。
そして、来週からはランバード領へ行く予定だ。

お義母様がレオ様がいないのならと招待してくれたのだ。
あちらでお茶会を主催するお義母様のサポートをしながら、次期伯爵夫人としての御披露目も兼ねている。
今まで社交をしてこなかった私には、人脈が殆んどない。
お義母様の力を借りて、少しずつ慣れていかなければならない。

緊張はするものの、楽しみの方が大きい。
今まで知らなかった事を知れるのは自分にとって大きな糧になるとこの結婚を通して感じる事が多くなったからだ。

それに、結婚式の準備もお義母様が主導して下さっている。
何もわからない私にとって、先生のような方だ。

色々考えてワクワクしすぎたかしら…何故かあまりお腹が減らない。

「アンナ、申し訳ないんだけど、昼食は軽くで良いと料理長に伝えてくれる?」

「昨日もあまり召し上がっていらっしゃいませんが…お身体に不調でも?」

「ううん。特に悪い所はないわ。
まだ疲れが取れないのかしら?
たくさん休んだはずなんだけど…」

「では、お野菜たっぷりのスープをお願いしてきましょうか?それなら食べられそうですか?」

「そうね。それなら食べられそう。お願い出来る?」

「かしこまりました。では準備出来るまでお休み下さい」

そう言ってアンナはお茶を淹れてくれて、いそいそと料理長の所へ行った。

最近、アンナが綺麗になった。もしや好い人でもできたのかしら?
何故か足しげく厨房に通っているようだし…怪しいわ、問い詰めてあげなきゃ。
そう思うと私も笑顔になった。

……そういえば…レオ様の告白に、私は何も言葉を返していない。
レオ様の事を好きかと問われれば好きと答える事が出来る。
私の周りには家族と使用人ぐらいしか男性は居なかった。領地での友人も使用人の家族だったし、そこには男児はいなかったからだ。
なので、異性として意識した初めての男性がレオ様なのだ。

これが恋愛感情なのかと問われれば、答えは『わからない』だ。
この気持ちが恋なのか…。
それに、私とレオ様は恋愛をする前に家族になった。
この気持ちは家族に感じる情なのか…判断する材料が私になかったのだ。



レオ様が視察に出発して5日になろうとしていた。
本当なら今日からランバード領に向かう予定でいたのだけれど…

「奥様、ご気分はいかがです?もうすぐ医者も到着します。
その前に果実水をお持ちしましたので、少しでもお飲みになりませんか?」

私はこの5日間、なんとなく体の不調を覚えていた。

食欲はあまりなく、何故か眠い。
そして最近では微熱を感じるようになっていた。
そして今朝になって、嘔吐してしまったのだ。

今まで医者の診察は大げさだと断っていた私だが、流石にアンナに叱られて今にいたる。

「うーん。今何か口に入れるとまた吐いちゃいそうなのよね…」

「でも、水分ぐらいは体に入れておきませんと、脱水という症状に陥って、ますます体に悪いそうですよ?」

「…なら、少し」

私はそう言うと、アンナから果実水を受けとる。
柑橘類の入った水は、意外なことに飲むことが出来た。

「美味しかったわ。ありがとう。少しスッキリしたし」

「ようございました」

そうしていると、フェルナンデスが医師の到着を告げる。
今回は何故か女性の医師だ。人払いをして、早速問診と診察が始まった。



「奥様。おめでとうございます。ご懐妊でございます」

……え?

「懐妊……ということは、私のお腹の中に赤ちゃんが?」

「はい。今はまだ安定期ではございませんので、あまり無理をなさらないように。
食事は取れそうな物を。妊娠初期におすすめの食事を料理長に伝えておきましょう。
あまりに吐気が強く食事が取れない時にはご相談下さい。
あと2、3ヶ月もすれば安定期に入ります。それまでは少し頻回に診察をさせて頂きますね」

私はまだ全然膨らんでないお腹に手をあてる。
この中に私とレオ様の赤ちゃんが居る。
間違いなく新しい命が宿っていると思うと、不思議な気持ちだ。

嬉しい…凄く嬉しい。この気持ちを…レオ様と一緒に味わいたかった。
直ぐに知らせたいけど、お手紙や伝言ではなく、自分の口から伝えたい…。

「では、私は侍女の方に今の時期の注意点などを伝えておきます。
あと8ヶ月もすれば赤ちゃんに会えますよ。
それまでは母体が資本です。奥様が口にするものが赤ちゃんの体を作るのですから。元気で丈夫な赤ちゃんを産む為にも、お母さんが元気でないと。では失礼しますね」

医師が部屋から出て少しすると、アンナとフェルナンデスが入ってきた。

「奥様!おめでとうございます!」
アンナは目に涙を浮かべてる。

「奥様。おめでとうございます。レオナルド様に伝言を頼みますか?」

「いいえ。私、自分の口から伝えたいの。
帰ってきてから私が伝えるわ。
…喜んでもらえるかしら?」

「もちろんです。レオナルド様も喜ばれますよ」

「でも、安定期まではあまり長く馬車に乗れないみたいなの。ランバード領には…」

「大奥様には、私から断りを入れておきます。理由が理由ですから、きっとあちらから飛んで来られると思いますよ」

「…フェルナンデスはもしかして妊娠だと思ってたの?今日は女医の方だったから…」

「いいえ?レオナルド様から奥様の診察には女性をと言われておりましたので。
男性の医師に奥様を触らせる事は絶対にダメだとのレオナルド様からの命に従いました」
……そんな理由だったのね…恥ずかしい。

「さぁ、そうとわかれば、これからは栄養価が高く、食べやすい物を用意させましょうね!」
とアンナがはりきって厨房に向かう。
その背中を見ながらフェルナンデスも

「では私も失礼いたします。
伯爵夫妻にすぐに知らせを送ります。
間もなくアンナも戻ると思いますが、何かご用の際にはそちらのベルを鳴らして下さい」
そう言って退室していった。

私はまたそっとお腹に手をあてる

「お母様も頑張るから、あなたも頑張ってね。あなたに会える日を楽しみに待ってるわ」

早くレオ様に知らせたい。
その時の私は幸せに包まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

そういう時代でございますから

Ruhuna
恋愛
私の婚約者が言ったのです 「これは真実の愛だ」ーーと。 そうでございますか。と返答した私は周りの皆さんに相談したのです。 その結果が、こうなってしまったのは、そうですね。 そういう時代でございますからーー *誤字脱字すみません *ゆるふわ設定です *辻褄合わない部分があるかもしれませんが暇つぶし程度で見ていただけると嬉しいです

処理中です...