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手紙 sideレオ

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レベッカは領地へ発った。
母上にバザーの手伝いを頼まれた為だ。
レベッカはそれはそれは嬉しそうに

「お義母様に誘われました!次期伯爵夫人として頑張ってきますね!」
と俺に報告してくれた。

当然のように、レベッカが俺との未来を語ってくれる事が嬉しい。
ずっとこの先もレベッカの隣に居て良いのだと言われているようだ。

レベッカも俺の事を好意的にみてくれているはずだ…きっと。

俺もこの視察に向かう前に、レベッカにきちんと自分の気持ちを伝えるつもりでいる。
始まりはお互いの利益の為だったかもしれないが、俺にとっては運命だった。
レベッカに会えた事は俺の人生の中で1番の幸運だろう。


俺が執務室で父から少しずつ任され始めた仕事に向かっていると、フェルナンデスから手紙が差し出される。
差出人の名前はないが…

「ジョシュア様からです」

兄は居場所を捜さないで欲しいと言っていたが、俺はフェルナンデスに頼んで、兄上の立ち上げた商会を探し当てた。
そして商会宛に手紙を書いたのだった。

あの女とは無事婚約解消となった事、両親も俺も兄上を心配している事、兄上の気持ちに気付かず追い詰めてしまった事、その上で廃嫡するしかなかった事。…そして、俺が結婚して伯爵を継ぐ事になった事。こちらの事は心配せず、兄上には自由に幸せになって欲しい。そう伝えたかった。

「ありがとう」

俺は手紙を受けとると、中を確認した。
懐かしい兄の筆跡だ。几帳面な兄の性格が出ている。



ーーーーーーーーーー


親愛なる弟レオナルドへ

まずは結婚おめでとう!女嫌いのお前が結婚なんて、天と地がひっくり返ってもないんじゃないかと思ってたよ。
…きっと素敵な女性なんだろう。お前の手紙からも伝わってきたよ。

私の我が儘で、家族に迷惑をかけてしまった事、心から申し訳なく思っている。手紙には書いてなかったが、慰謝料については、いつか必ず少しずつでも返す。

特にお前には迷惑をかけてしまった。
幼い頃から、騎士を目指していたお前が近衛騎士になった時の嬉しそうな顔を思い出すよ。
その夢を私が潰してしまったんだ。恨んでくれて構わない。
それだけの事をしてしまったと自覚している。

正直に言うと、両親に、お前に合わせる顔がない。
捜さないで欲しいなんて、ただの逃げだ。私は家族を捨てた癖に、家族に捨てられる事が怖かった、臆病者なんだよ。
幸せになる資格はない。

しかし、後悔はしていないんだ。初めて自由を手に入れた気がしたよ。
平民になる事を選んだ事も、この国で生きていく事を決めた事も後悔はしていない。
だから、私の心配はしなくて良い。
薄情な兄の事は忘れて、お前は奥さんと仲良く幸せになって欲しい。
もう会うことは叶わないが、遠いこの地から家族の、そしてお前の幸せを願っているよ。

それと、最後にもう1つ頼みがある。
きっと、お前の事だからフェルナンデスを上手く使ってくれるだろう。
あいつは口は悪いが、出来る奴だ。
お前の側に置いてやって欲しい。
きっとこれからお前が伯爵になった時に役に立つはずだ。

…あいつは、私の親友なんだ…くれぐれもよろしく頼む。


父上と母上にも心からの謝罪と愛を込めて。
     
                                              ジョシュア

ーーーーーーーーーーーー


兄の手紙を読み終えた俺は、そっとフェルナンデスに手渡した

「中身は読んだのか?」

「いえ、差出人の名前がありませんでしたので、確認するため開封はいたしましたが、内容については読んでおりません」

「そうか…お前の事も書いてある。読んでみるといい」

「…よろしいのですか?」

「ああ」

フェルナンデスは素早く手紙に目を通した。
その目は少し潤んでいるように見える

「お元気そうで、安心しました」

「ああ、そうだな。俺も安心したよ。兄上はそう書いてあるが…兄上にも、やっぱり幸せになって欲しいな。
俺はもう充分幸せだから」

「…レベッカ様のお陰ですね」

「そうだな。彼女は俺の幸せそのものだよ」

そう2人でしみじみしていると、何やら玄関が騒がしい。
俺とフェルナンデスは顔を見合わせた。

「レオナルド様、こちらでお待ち下さい。私が確認して参ります」

そう言ってフェルナンデスは部屋を後にした。

待ってろと言われても気にはなるので、そっと部屋を出ると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「失礼なのは重々承知だ!とりあえず、ベッキーに会わせてくれ。
話しがしたいんだ!」

「お待ちください。奥様は今日は、ご不在でございます。また日を改めて…」

「どうしてベッキーがいないんだ。隠してるのか?隠してるんだろ?ベッキー!ベッキー!ちょっと出てきなさい!」

…いつもの冷静沈着な様子とはまるで違うが、間違いない。アレックス殿だ。

俺は急いで玄関に向かう。
階段を降りている俺が目に入ったアレックス殿が怒気を孕んだ声で俺に

「レオナルド!貴様が嘘をついている事はわかっているんだ!ベッキーを騙したんだな?この嘘つき!」

こんなアレックス殿は見たことがない。
俺は訳がわからないながらもアレックス殿の元へ急いで向かう。
アレックス殿は俺に殴りかからんばかりの勢いで俺の胸ぐらを掴んだ。
うちの護衛騎士達が周りで緊張しているのが伝わる。
この邸の主に手を出しているのだから、本来なら護衛が拘束しなければならない。
でも、相手は主の妻であるレベッカの兄。しかもその主が手を出さないように制していた。

「落ち着いて下さい。何があったのですか?」

「何があったのか?じゃないだろう。
ベッキーは貴様に騙されているんだ。
この結婚は無効だ。ベッキーを返してくれ!」

結婚が無効?なんの事だ?とりあえず、話を聞く必要があるのだが、その前にこの手を離してもらいたい。

「とにかく!今ここにレベッカは居ません。うちの領地に行っています。
落ち着いて、話を聞かせて下さい」
そう言うと、アレックス殿は手を離し、

「ランバードの領地だな?
なら私が迎えに行く。
とにかくベッキーを貴様の元には置いておけない」
そう言って玄関を出ていこうとした腕を俺は掴んだ。

「何があったか知らないが、レベッカは俺の妻だ。例えレベッカの兄でも勝手な事はさせない」

「何が『妻』だ。ベッキーを都合良く使っただけのくせに。
貴様が孕ませた女は別の女だろ?
その女を囲ってるのか?その女と結婚したら良かっただろ?
結婚出来ない身分の相手か?平民か?娼婦か?
他の女を囲ってる奴にベッキーを任せておけない。
その薄汚い手でベッキーに触れるなど…その手を切り落としてやりたいよ」

「な、何を?どういうことだ?意味がわからない」

俺は本気で言われている意味がわからなかった。
レベッカの他に女なんているわけがない。

「その不思議そうな顔も演技か?騎士じゃなくて役者にでもなったらどうだ?
私はソフィア・ガンダルフ侯爵令嬢から聞いたんだ。お前の兄の元婚約者でお前にとっても元婚約者だろ?」

ソフィア嬢…その名前を聞いて、俺は頭の中が真っ白になった…
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