とりあえず結婚してみますか?

初瀬 叶

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お父様の気持ち

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「お嬢様、旦那様がお呼びでございます」

夕食後、自室で寛いでいると、執事のロビンが呼びに来た。
私はロビンに付いて、お父様の執務室へと足を運ぶ。お父様に呼び出された事なんて、今まであったかしら?

執務室に入るとお父様は私をソファーに座るように促した。

「いよいよ明日、こちらを発つのだな。準備はもう済んだのか?」

「はい。必要な物はもう全て用意できております。後は私が行くだけですわ。」

お父様と2人きり…初めてかもしれない。
なんだか落ち着かない。

「お前と2人で話すのは、初めてかもしれないな。」
お父様も私と同じことを考えていたようだ。

「いつもは、お前と話そうとすると、アレックスの邪魔が入ったからな。」とお父様が笑う。
ん?お兄様が邪魔してたの?何で?

「アレは、父親の私でさえお前と2人にするのを嫌がったからな。いつからあんなになったのやら。」
お兄様…お父様にまで嫉妬を?それをお父様にまで知られてるなんて、恥ずかしくて顔をあげられない。

「お前が産まれた時、私は仕事で家に居なかった。オリビアもあまり体調が良くなくてな。産まれたばかりのお前は、すぐに乳母の手で育てられるようになったよ。」

確か、お兄様も同じような事を言ってたように思う。ちなみにオリビアは私の母の名だ。

「お前は夜泣きが激しくて、体力のなかったオリビアには荷が重かったのだ。
オリビアにとっては初めての自分の子だが、お前にかかりっきりになる事は出来なかった。
オリビアがお前を愛していなかったわけじゃない。
でも、産んでも手をかける事が出来なかった事を後ろめたく思うあまり、だんだんとお前と関わる事が怖くなっていったように思う。
それをフォローするどころか、仕事にかまけて何もしなかった私にも責任がある。
お前には、きっと寂しい思いをさせた。
すまなかったね。」

初めて聞く父と母の話しだ。私は首を横に振った。

「確かに、寂しい気持ちになった事はありました。母はお兄様達を思うあまり、私に向き合ってくれないのだと思っていましたから。」

「ああ、それも私のせいだ。結婚するときにくれぐれも息子達を頼むと、教育の全てをオリビアに任せてしまった。
きつく言い過ぎたんだよ。オリビアは真面目な性格だ。
私の言葉は呪いのようだったんだろう。」

「お母様も必死だったんですね。正直に言えば、お母様に構ってもらうお兄様達を羨ましく思った事もありましたから。
でも、その分お兄様達には可愛がっていただきましたわ。」

「お前が泣き出すと誰が抱いても泣き止まなくてな。
みんな苦労していたんだが、不思議とアレックスが抱くと泣き止んだんだ。
6歳のアレックスが夜も眠らずお前の夜泣きに付き合っていたよ。
メアリーが頼むから寝てくれと頼んでも『レベッカは僕がいないと泣き止まないんだ。だから僕がレベッカのお世話をするよ。みんなはレベッカに触らないでね。』
と言って、他の者を近寄らせなかった。お乳以外でな。
まぁ、自分のお乳が出るかもしれないと、お前に自分の乳首を吸わせようとした事もあったが…」

お、お兄様…色々と将来が不安になります。
「それは初めて聞きましたわ。」

「まぁ、さすがにお乳の話しはあいつも恥ずかしくてせんだろうがな。
オムツを替えるのも、お風呂に入れるのもアレックスだったよ。まぁ、サミュエルが大きくなるにつれて、2人でお前を取り合っていたが。
アレックスのお前に対する異常な愛は、お前が産まれた時からだ。諦めろ。」
諦めろと言われましても…本当に異常ですよ?認めろと?

「でも、お兄様にも幸せになっていただきたいですわ。私のように」
そう私が答えると。

「そうだな。しかし、難しいだろう。アレを矯正する事はもう不可能だ。」

お父様、諦めないで下さい!うちの存続にかかわります!

「まぁ、アレックスが結婚せずとも、サミュエルの子どもか、お前の子どもにでも伯爵家を継がせても良いしな。なんとかなる。」

「お父様はそれでよろしいのですか?」

私は仕事に厳しい父は、全てにおいて厳格なのだと思い込んでいた。
初めて2人で話しをしてみて、私が勝手に作り上げた父親像が崩れていくのを感じる。良い意味で。

「伯爵家の存続が大切なのは、領民の為だ。我がコッカス家に大切な事は、領地を良く統治し、領民の生活をより良くする事に尽力する事だよ。
優秀な人材がいるなら、嫡男に拘る必要もない。
この領地と領民の事を考えられる人物が当主になるべきだ。
私がアレックスを次期当主に選んだのは、アレックスがそこを良く理解し、実践する為に努力しているからだ。
サミュエルだって医者になり、この領民の為になりたいと今頑張っているんだ。
2人とも自慢の息子だよ。」

「お父様。私…何もわかっていませんでした。勝手に結婚相手を決めてしまって…
私はこの領地や民の為に何も出来ておりません。」

気づけば私の頬を涙が伝っていた。今さら私の軽はずみな行動を後悔しても遅い。
お兄様から自由になる為に選んだ結婚…本当に私は馬鹿だ。

お父様は、
「おいおい。レベッカを泣かせたなんてアレックスにばれたら、私が殺されてしまうよ。
この前も言ったが、ランバード伯爵家と縁を持つ事は、無益ではない。
レオナルド殿はフィリップ殿下の側近だ。フィリップ殿下が王太子になる事はこのままいけば間違いないだろう。
そんな人物と縁続きになれるんだ。
相手に問題があるわけないじゃないか。
私だって、無益な事は好きじゃないさ。
打算だってあるんだ、気にするな。」
と笑ってくれた。

「そう言っていただけると…嬉しいです。」
私の心が少し軽くなる。

「レベッカ、おいで。」
とお父様は立ち上がり、私を呼んで、抱きしめてくれた。

「いつもはアレックスに良い所ばかり譲っているからな。たまには良いだろう。」

「ウフフ。そうですね。」
お父様は涙の残る私の頬を撫でながら

「レベッカ、幸せになるんだよ。それがお前の使命なのだから。」
と微笑んでくれた。

「はい。私、幸せになります。お父様、今まで育ててくれて、ありがとうございました。」
とお父様の胸に頬を寄せ、初めての抱擁に気持ちがほどけていくのを感じた。

(もっと、早くにこうやってお話すれば良かったわ。今さら後悔しても遅いのだから、私は今から本当に幸せになる努力をしよう。
恋愛結婚が幸せの全てじゃないもの。
この縁を大切にして、いつの日かこのコッカス領に恩返しが出来るようにしなくちゃ。)

私はお父様の腕の中で、決意を新たにした。
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