初瀬 叶  短編集

初瀬 叶

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婚活令嬢荒野を行く!

第10話

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「グリンダ!グリンダ!」

……また来た。日に何回私の名前を呼んでいるんだろう、この人は。


「殿下、こちらにおりますわ」
私は勉強部屋を出て私の名前を叫びながら走り回る殿下に声を掛けた。
殿下は私の姿を見つけると走り寄る。……尻尾が見えるようだ。

「グリンダ!!また勉強かい?必要ないって言っただろう?それより、今から二人で遠乗りに行かないか?天気も良いし」

「今日はこれから議会がありますでしょう?サンダースが申しておりましたよ」
サンダースは殿下の側近だ。殿下に振り回されている仲間の一人。

「今日の議会は陛下が出れば事足りる。僕は必要ない」

「陛下を補佐するのも殿下のお役目でございましょう?それに、辺境への視察も断られたとかで、陛下もお嘆きでいらっしゃいましたよ」

「辺境の視察なんて、片道何日かかると思っているの?そんなにグリンダと離れているなんて無理だよ」

「ですから、私も一緒にと申したではありませんか」

「視察にはたくさんの近衛が付いて来るし、辺境には辺境の騎士団が居る。……男ばかりじゃないか」

私に付いている護衛は全て女性だ。殿下の命令で。
殿下は私が兄の結婚式で近衛をガン見していた事に気づいていた。それを今でもネチネチと責めてくる。……正直面倒くさい。

こうなると、追い返すのに時間がかかるので、

「殿下。私には殿下しか目に入っておりません。機嫌を直して下さいませ」
と私から殿下に抱きつく。

「グリンダ本当?じゃあ『愛してる』って言ってくれる?」

「……愛してると言えば、議会にちゃんと出席して下さいますか?」

「愛してると言って口づけしてくれたら……だな」

私は仕方なく、

「殿下、愛しておりますわ。誰よりも」
と言って背伸びをすると、殿下にキスをした。
そしてにっこりと微笑むと、殿下は

「僕も愛してるよ。仕方ない。議会に顔を出してくるよ。でも、それが終わったら僕とお茶を飲んでくれる?」

「ええ、もちろんです。殿下の今日のお勤めが終わったら、お付き合いいたしますわ」
と私が言えば、やっと殿下はトボトボと帰って行った。

私の後ろから、リリーが

「もう見慣れましたけど、毎回、毎回大変ですね」
と私に声を掛けた。リリーは王族に嫁ぐ私を心配して付いて来ると言ってくれた。殿下は私の為ならと快諾してくれたのだった。


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