8 / 16
婚活令嬢荒野を行く!
第3話
しおりを挟む
「やっと……着いたわね」
「着きましたね」
私達は目的地であるロウ子爵領に到着した。
「………長閑な所ね」
「本当に……緑豊かな所で」
私とリリーは微笑みながらそう言い合った。心の声は聞かないでおこう。
ここまで来るのに色々あった。本当に。王都から離れるにつれ、悪路が続き、身体はバキバキ。砂埃が酷くて、馬車の窓は曇って見えなくなっていた。
後で馬車を洗わせて貰わなきゃね。馬もクタクタな筈だ。
そんな事を考えながら、私はスカートの皺を伸ばし自分の身なりを整える。
本当なら湯浴みでもしたい気分だがグッと我慢だ。
私は口角を上げて笑顔を作る。最初が肝心だ。
リリーがドアノッカーを叩くと、屋敷の扉を開き中からロウ家の執事と思われる人物が顔を出した。
「私、グリンダ・チェスターと……」
と自己紹介を始めようと口を開いた途端、
「遠路遥々ご足労ただきましたのに……大変申し訳御座いませんが、イーサン様がお会い出来ないと……」
と執事は申し訳なさに体を小さくしながらも、はっきりと衝撃的事実を告げた。
「は?え?会えない?」
私はあまりの事に目を白黒させる。
「はい。本当に申し訳ありません!!」
と執事は深々と頭を下げた。
「ちょっ、ちょっとお待ち下さい!このロウ子爵領まで片道三日もかけて来たんですよ?!本人が顔も見せないとは!何たる失礼!!!」
リリーは怒り心頭で執事に食って掛かった。
「仰る通りでございます。ただこちらにも事情が御座いまして……」
と頭を下げっぱなしの執事に、
「チェスター伯爵家を馬鹿にして良い事情など、存在いたしませんよ!!」
とリリーが畳み掛ける。しかし、執事は頭を上げるつもりもないようで、
「どう言われようとこればかりは……。今回の縁談につきましては無かった事に……。本当に申し訳御座いません。重ねてお詫び申し上げます」
と苦しそうに告げるだけだった。
「そんな……!!」
とまた怒鳴りそうなリリーの腕を掴んで私は止めた。ここで粘っても、もうどうしようもない。
例え状況が変わってイーサン様に会えたとしても、断られるのがオチだ。
「……わかりました。ではここで失礼させていただきます」
と私が言うと、リリーは
「お嬢様!」
と驚いた様に私を見た。
「リリー、もう良いわ。帰りましょう」
「ですが……」
「いいのよ。御縁がなかったという事でしょう。では。イーサン様によろしくお伝え下さい」
と私は軽く執事に挨拶すると、馬車の方へと歩き始めた。リリーは慌ててその後を付いて来る。
ふと振り返り屋敷を見上げると、二階の窓に男性の姿が見えた様な気がした。
それはとても一瞬で、その人物が誰なのかは分からなかったが、私はまた前を向いて馬車へと歩き出す。
あぁ……またあの道のりを帰らなければならないのかと思うと、心が鉛を飲み込んだ様に、重たくなった。
「着きましたね」
私達は目的地であるロウ子爵領に到着した。
「………長閑な所ね」
「本当に……緑豊かな所で」
私とリリーは微笑みながらそう言い合った。心の声は聞かないでおこう。
ここまで来るのに色々あった。本当に。王都から離れるにつれ、悪路が続き、身体はバキバキ。砂埃が酷くて、馬車の窓は曇って見えなくなっていた。
後で馬車を洗わせて貰わなきゃね。馬もクタクタな筈だ。
そんな事を考えながら、私はスカートの皺を伸ばし自分の身なりを整える。
本当なら湯浴みでもしたい気分だがグッと我慢だ。
私は口角を上げて笑顔を作る。最初が肝心だ。
リリーがドアノッカーを叩くと、屋敷の扉を開き中からロウ家の執事と思われる人物が顔を出した。
「私、グリンダ・チェスターと……」
と自己紹介を始めようと口を開いた途端、
「遠路遥々ご足労ただきましたのに……大変申し訳御座いませんが、イーサン様がお会い出来ないと……」
と執事は申し訳なさに体を小さくしながらも、はっきりと衝撃的事実を告げた。
「は?え?会えない?」
私はあまりの事に目を白黒させる。
「はい。本当に申し訳ありません!!」
と執事は深々と頭を下げた。
「ちょっ、ちょっとお待ち下さい!このロウ子爵領まで片道三日もかけて来たんですよ?!本人が顔も見せないとは!何たる失礼!!!」
リリーは怒り心頭で執事に食って掛かった。
「仰る通りでございます。ただこちらにも事情が御座いまして……」
と頭を下げっぱなしの執事に、
「チェスター伯爵家を馬鹿にして良い事情など、存在いたしませんよ!!」
とリリーが畳み掛ける。しかし、執事は頭を上げるつもりもないようで、
「どう言われようとこればかりは……。今回の縁談につきましては無かった事に……。本当に申し訳御座いません。重ねてお詫び申し上げます」
と苦しそうに告げるだけだった。
「そんな……!!」
とまた怒鳴りそうなリリーの腕を掴んで私は止めた。ここで粘っても、もうどうしようもない。
例え状況が変わってイーサン様に会えたとしても、断られるのがオチだ。
「……わかりました。ではここで失礼させていただきます」
と私が言うと、リリーは
「お嬢様!」
と驚いた様に私を見た。
「リリー、もう良いわ。帰りましょう」
「ですが……」
「いいのよ。御縁がなかったという事でしょう。では。イーサン様によろしくお伝え下さい」
と私は軽く執事に挨拶すると、馬車の方へと歩き始めた。リリーは慌ててその後を付いて来る。
ふと振り返り屋敷を見上げると、二階の窓に男性の姿が見えた様な気がした。
それはとても一瞬で、その人物が誰なのかは分からなかったが、私はまた前を向いて馬車へと歩き出す。
あぁ……またあの道のりを帰らなければならないのかと思うと、心が鉛を飲み込んだ様に、重たくなった。
123
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
恋人に捨てられた私のそれから
能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。
伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。
婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。
恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。
「俺の子のはずはない」
恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。
「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」
だけどカトリオーナは捨てられた――。
* およそ8話程度
* Canva様で作成した表紙を使用しております。
* コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。
* 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
(完結)私の夫は死にました(全3話)
青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。
私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。
ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・
R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
つがいの皇帝に溺愛される皇女の至福
ゆきむらさり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる