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婚活令嬢荒野を行く!
第3話
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「やっと……着いたわね」
「着きましたね」
私達は目的地であるロウ子爵領に到着した。
「………長閑な所ね」
「本当に……緑豊かな所で」
私とリリーは微笑みながらそう言い合った。心の声は聞かないでおこう。
ここまで来るのに色々あった。本当に。王都から離れるにつれ、悪路が続き、身体はバキバキ。砂埃が酷くて、馬車の窓は曇って見えなくなっていた。
後で馬車を洗わせて貰わなきゃね。馬もクタクタな筈だ。
そんな事を考えながら、私はスカートの皺を伸ばし自分の身なりを整える。
本当なら湯浴みでもしたい気分だがグッと我慢だ。
私は口角を上げて笑顔を作る。最初が肝心だ。
リリーがドアノッカーを叩くと、屋敷の扉を開き中からロウ家の執事と思われる人物が顔を出した。
「私、グリンダ・チェスターと……」
と自己紹介を始めようと口を開いた途端、
「遠路遥々ご足労ただきましたのに……大変申し訳御座いませんが、イーサン様がお会い出来ないと……」
と執事は申し訳なさに体を小さくしながらも、はっきりと衝撃的事実を告げた。
「は?え?会えない?」
私はあまりの事に目を白黒させる。
「はい。本当に申し訳ありません!!」
と執事は深々と頭を下げた。
「ちょっ、ちょっとお待ち下さい!このロウ子爵領まで片道三日もかけて来たんですよ?!本人が顔も見せないとは!何たる失礼!!!」
リリーは怒り心頭で執事に食って掛かった。
「仰る通りでございます。ただこちらにも事情が御座いまして……」
と頭を下げっぱなしの執事に、
「チェスター伯爵家を馬鹿にして良い事情など、存在いたしませんよ!!」
とリリーが畳み掛ける。しかし、執事は頭を上げるつもりもないようで、
「どう言われようとこればかりは……。今回の縁談につきましては無かった事に……。本当に申し訳御座いません。重ねてお詫び申し上げます」
と苦しそうに告げるだけだった。
「そんな……!!」
とまた怒鳴りそうなリリーの腕を掴んで私は止めた。ここで粘っても、もうどうしようもない。
例え状況が変わってイーサン様に会えたとしても、断られるのがオチだ。
「……わかりました。ではここで失礼させていただきます」
と私が言うと、リリーは
「お嬢様!」
と驚いた様に私を見た。
「リリー、もう良いわ。帰りましょう」
「ですが……」
「いいのよ。御縁がなかったという事でしょう。では。イーサン様によろしくお伝え下さい」
と私は軽く執事に挨拶すると、馬車の方へと歩き始めた。リリーは慌ててその後を付いて来る。
ふと振り返り屋敷を見上げると、二階の窓に男性の姿が見えた様な気がした。
それはとても一瞬で、その人物が誰なのかは分からなかったが、私はまた前を向いて馬車へと歩き出す。
あぁ……またあの道のりを帰らなければならないのかと思うと、心が鉛を飲み込んだ様に、重たくなった。
「着きましたね」
私達は目的地であるロウ子爵領に到着した。
「………長閑な所ね」
「本当に……緑豊かな所で」
私とリリーは微笑みながらそう言い合った。心の声は聞かないでおこう。
ここまで来るのに色々あった。本当に。王都から離れるにつれ、悪路が続き、身体はバキバキ。砂埃が酷くて、馬車の窓は曇って見えなくなっていた。
後で馬車を洗わせて貰わなきゃね。馬もクタクタな筈だ。
そんな事を考えながら、私はスカートの皺を伸ばし自分の身なりを整える。
本当なら湯浴みでもしたい気分だがグッと我慢だ。
私は口角を上げて笑顔を作る。最初が肝心だ。
リリーがドアノッカーを叩くと、屋敷の扉を開き中からロウ家の執事と思われる人物が顔を出した。
「私、グリンダ・チェスターと……」
と自己紹介を始めようと口を開いた途端、
「遠路遥々ご足労ただきましたのに……大変申し訳御座いませんが、イーサン様がお会い出来ないと……」
と執事は申し訳なさに体を小さくしながらも、はっきりと衝撃的事実を告げた。
「は?え?会えない?」
私はあまりの事に目を白黒させる。
「はい。本当に申し訳ありません!!」
と執事は深々と頭を下げた。
「ちょっ、ちょっとお待ち下さい!このロウ子爵領まで片道三日もかけて来たんですよ?!本人が顔も見せないとは!何たる失礼!!!」
リリーは怒り心頭で執事に食って掛かった。
「仰る通りでございます。ただこちらにも事情が御座いまして……」
と頭を下げっぱなしの執事に、
「チェスター伯爵家を馬鹿にして良い事情など、存在いたしませんよ!!」
とリリーが畳み掛ける。しかし、執事は頭を上げるつもりもないようで、
「どう言われようとこればかりは……。今回の縁談につきましては無かった事に……。本当に申し訳御座いません。重ねてお詫び申し上げます」
と苦しそうに告げるだけだった。
「そんな……!!」
とまた怒鳴りそうなリリーの腕を掴んで私は止めた。ここで粘っても、もうどうしようもない。
例え状況が変わってイーサン様に会えたとしても、断られるのがオチだ。
「……わかりました。ではここで失礼させていただきます」
と私が言うと、リリーは
「お嬢様!」
と驚いた様に私を見た。
「リリー、もう良いわ。帰りましょう」
「ですが……」
「いいのよ。御縁がなかったという事でしょう。では。イーサン様によろしくお伝え下さい」
と私は軽く執事に挨拶すると、馬車の方へと歩き始めた。リリーは慌ててその後を付いて来る。
ふと振り返り屋敷を見上げると、二階の窓に男性の姿が見えた様な気がした。
それはとても一瞬で、その人物が誰なのかは分からなかったが、私はまた前を向いて馬車へと歩き出す。
あぁ……またあの道のりを帰らなければならないのかと思うと、心が鉛を飲み込んだ様に、重たくなった。
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