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私の命が尽きるまで
第4話 〈最終話〉
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自分が逃げた所で、この王宮の者達が困ることなどないではないか…セーラはそう思った。なら…リカルドと共に、此処を去っても良いのではないか…しかし、セーラには1つリカルドに告げなければならない事がある。
それは、
「…だめよ…。例え逃げても…私はもう、そんなに生きる事は出来ないの」
セーラがそう言って俯くと、
「何故?!何故です?2人が共に生きていく未来を探せば良い。私も貴女も…此処に居なければ、死ぬ必要などない筈なのです。
私は辺境伯で無くなりました。もちろん、貴族でもありません。裕福な暮らしはさせてあげられないかもしれないが、蓄えなら少しはありますし、死ぬ気で働きます。苦労はさせない!…ように頑張ります。
だから、この手を取って下さい。私は貴女と生きていきたい」
リカルドの必死な言葉にセーラは嬉しくなってしまう。
しかし、彼の言葉を思い出し、途端にセーラの表情は曇った。…自分の寿命はもうあまり残されていない事を思って。
「リカルド様。私にはもうあまり時間が残っていないの。もし貴方のこの手を取って、共に生きる決意をしても…貴方と一緒に居られる時間はごく僅か。きっと1年にも満たないわ」
「…どういう事なのです?」
リカルドの声は震えていた。
「私、何度も何度も同じ時をなぞったの。でも、そんな奇跡を起こすには、代償が…必要だったの」
というセーラの言葉に、リカルドは全てを悟った。
「…貴女の時間が余り残されていないのであれば、尚更。私は貴女の最期の時をこんな牢獄のような場所で過ごして欲しくない。私は…貴女の心からの笑顔が見たいのです」
そうリカルドは言うと、セーラの頬を両手で包み込んだ。
その言葉にセーラの頬は再び涙で濡れていく。
「笑顔…。私、どうやって笑うのか、それすらも忘れてしまったわ」
「私がきっと思い出させてみせます」
リカルドはそのまま、セーラの顔を少し上に向けると、そっとセーラに口づけた。
セーラははにかんだように少し微笑むと、
「私をここから、連れて逃げてくれる?私もこんな場所で死にたくない…最期は貴方の腕の中が良いわ」
とリカルドの胸に顔を埋めた。
リカルドはセーラをきつく抱き締める。
「もちろんです。もう2度と貴女を離さないと誓います」
そのリカルドの言葉に、セーラも、
「私も…私の命が尽きるまで、貴方と共に生きると誓うわ」
と答えると、2人は再び口づけを交わした。
その日、この国の王妃が消えた。
国王サミュエルは血眼になって、セーラを探した。
「セーラを!早くセーラを見つけ出せ!どんな手段を使っても探し出すんだ!」
王妃を蔑ろにし、側妃を優遇してばかりだったサミュエルの変化に、側近達も驚きを隠せなかった。
「セーラ…セーラ…」
国王は消えた王妃の名を呼ぶが、応える者はもう居ない。
サミュエルは嘆き悲しみ、塞ぎ混むようになり、日に日に弱っていった。
あれほど寵愛していた側妃を王妃に迎える事もなく、周りが諦めるように言っても、最後の最後まで、セーラを探し求めた。
「あんた達、旅をしているのかい?」
「あぁ。妻が色んな景色を見たいと言うんでね。しかし、そろそろ腰を据えようかと思ってるんだ。…ここら辺に用心棒を雇ってくれそうな金持ちはいないかな?」
頬に傷のある大きな男が、宿屋の女将に訊ねた。隣には綺麗な女性が佇んでいる。
女性の髪は真っ白だが、とても美しく、彼女の儚げな雰囲気に合っていた。
「あんた、力がありそうだもんね。
なら、ここから少し先に行った街に大きな商会があるから、そこを訪ねてみたらどうだい?力仕事で人手が要るって言ってたよ。
あの街なら、暮らすにも便利だ。奥さんもきっと気に入るよ」
女将はそう言って、隣の女性に微笑んだ。
女性は、
「ねぇ、あなた、行ってみましょう?楽しみだわ」
と、夫の腕に手を添え笑った。そして、
「女将さん、お世話になりました。ありがとう」
と礼を言うと、2人は微笑み合って、宿屋を後にした。
女将は仲睦まじい様子の2人が小さくなるまで見送った。
2人の傍らには大きなカラスが1羽飛んでいる。
「あのカラス…そう言えばここに来た時も一緒に居たね。まるで2人を見守ってるようじゃないか…不思議な事もあるもんだ…」
女将の独り言は日常の喧騒に紛れて消えていった。
ーFinー
それは、
「…だめよ…。例え逃げても…私はもう、そんなに生きる事は出来ないの」
セーラがそう言って俯くと、
「何故?!何故です?2人が共に生きていく未来を探せば良い。私も貴女も…此処に居なければ、死ぬ必要などない筈なのです。
私は辺境伯で無くなりました。もちろん、貴族でもありません。裕福な暮らしはさせてあげられないかもしれないが、蓄えなら少しはありますし、死ぬ気で働きます。苦労はさせない!…ように頑張ります。
だから、この手を取って下さい。私は貴女と生きていきたい」
リカルドの必死な言葉にセーラは嬉しくなってしまう。
しかし、彼の言葉を思い出し、途端にセーラの表情は曇った。…自分の寿命はもうあまり残されていない事を思って。
「リカルド様。私にはもうあまり時間が残っていないの。もし貴方のこの手を取って、共に生きる決意をしても…貴方と一緒に居られる時間はごく僅か。きっと1年にも満たないわ」
「…どういう事なのです?」
リカルドの声は震えていた。
「私、何度も何度も同じ時をなぞったの。でも、そんな奇跡を起こすには、代償が…必要だったの」
というセーラの言葉に、リカルドは全てを悟った。
「…貴女の時間が余り残されていないのであれば、尚更。私は貴女の最期の時をこんな牢獄のような場所で過ごして欲しくない。私は…貴女の心からの笑顔が見たいのです」
そうリカルドは言うと、セーラの頬を両手で包み込んだ。
その言葉にセーラの頬は再び涙で濡れていく。
「笑顔…。私、どうやって笑うのか、それすらも忘れてしまったわ」
「私がきっと思い出させてみせます」
リカルドはそのまま、セーラの顔を少し上に向けると、そっとセーラに口づけた。
セーラははにかんだように少し微笑むと、
「私をここから、連れて逃げてくれる?私もこんな場所で死にたくない…最期は貴方の腕の中が良いわ」
とリカルドの胸に顔を埋めた。
リカルドはセーラをきつく抱き締める。
「もちろんです。もう2度と貴女を離さないと誓います」
そのリカルドの言葉に、セーラも、
「私も…私の命が尽きるまで、貴方と共に生きると誓うわ」
と答えると、2人は再び口づけを交わした。
その日、この国の王妃が消えた。
国王サミュエルは血眼になって、セーラを探した。
「セーラを!早くセーラを見つけ出せ!どんな手段を使っても探し出すんだ!」
王妃を蔑ろにし、側妃を優遇してばかりだったサミュエルの変化に、側近達も驚きを隠せなかった。
「セーラ…セーラ…」
国王は消えた王妃の名を呼ぶが、応える者はもう居ない。
サミュエルは嘆き悲しみ、塞ぎ混むようになり、日に日に弱っていった。
あれほど寵愛していた側妃を王妃に迎える事もなく、周りが諦めるように言っても、最後の最後まで、セーラを探し求めた。
「あんた達、旅をしているのかい?」
「あぁ。妻が色んな景色を見たいと言うんでね。しかし、そろそろ腰を据えようかと思ってるんだ。…ここら辺に用心棒を雇ってくれそうな金持ちはいないかな?」
頬に傷のある大きな男が、宿屋の女将に訊ねた。隣には綺麗な女性が佇んでいる。
女性の髪は真っ白だが、とても美しく、彼女の儚げな雰囲気に合っていた。
「あんた、力がありそうだもんね。
なら、ここから少し先に行った街に大きな商会があるから、そこを訪ねてみたらどうだい?力仕事で人手が要るって言ってたよ。
あの街なら、暮らすにも便利だ。奥さんもきっと気に入るよ」
女将はそう言って、隣の女性に微笑んだ。
女性は、
「ねぇ、あなた、行ってみましょう?楽しみだわ」
と、夫の腕に手を添え笑った。そして、
「女将さん、お世話になりました。ありがとう」
と礼を言うと、2人は微笑み合って、宿屋を後にした。
女将は仲睦まじい様子の2人が小さくなるまで見送った。
2人の傍らには大きなカラスが1羽飛んでいる。
「あのカラス…そう言えばここに来た時も一緒に居たね。まるで2人を見守ってるようじゃないか…不思議な事もあるもんだ…」
女将の独り言は日常の喧騒に紛れて消えていった。
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