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私の命が尽きるまで
第2話
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舞踏会が終わったその夜。セーラは眠れずにいた。
今までならば、舞踏会で陛下とリカルドが対立し、それを多くの貴族が目撃してしまう。その事でリカルドの立場はどんどんと悪くなっていく…筈だった。
しかし、今回はどうだ。…リカルド自身の姿すら、セーラは見ることもなかった。
もしかしたら…今度こそ彼を救えるのではないか…そんな事を考えてしまう。
セーラはますます目が冴えてしまった。
眠れなくなったセーラは寝台を降り、ガウンを羽織った。
月が綺麗な晩だ。月明かりが青白く部屋の中を照らしていた。
セーラは誘われるようにバルコニーに続く窓へと近づく。
ふと…何かが見えた気がした。
セーラはそっと窓を開け、バルコニーへと体を滑らせる。すると、いきなりセーラは背後から抱き締められる様に口を手で覆われた。
恐怖が体を支配する。…声は出せなかった。
セーラの背後の人物が、セーラへと声を掛ける。
「驚かせてしまって申し訳ありません。怪しい者ではありません」
セーラはその声の主を知っていた。思わず体の力が抜けるが、口は塞がれている為、声は出せない。
背後の人物は続けて、
「声を…出さないと約束して下さいますか?手荒な真似は…致しませんので」
と小声でセーラへと話しかけた。その声はどこか切羽詰まっているようにセーラには思えた。
セーラは声を出せない為、代わりに大きく頷いた。彼が困る事など…するつもりはない。安心して欲しくて、セーラは自分の口を覆っていた大きな手の甲をそっと撫でた。
彼もセーラの気持ちがわかったのだろうか?
ゆっくりと手を離すと、また小声で、
「私の名は…」
と名乗ろうとした。
それをセーラは遮るように、彼にだけ聞こえるぐらいの声で、
「リカルド・ローレンス辺境伯様ですね?」
と、愛しい人の名前を呼んだ。
心の中で繰り返し、繰り返し呼んだ名前だが、口に出すのは初めてだった。
「私の事…よくわかりましたね」
セーラには当たり前の事だが、その理由を告げる事は出来ない。
セーラが黙っていると、
「こんな場所に忍び込んだ無礼をお詫びいたします。しかし…どうしても妃陛下に聞いていただきたい話があるのです」
とリカルドはここへ来た理由について話しをしたいと言った。
セーラはまた大きく頷いた。背中に感じる彼の温もりに泣きそうになる。
何度も何度も繰り返した人生の中で、彼にここまで近づいたのは初めてだ。
リカルドは、
「今から私が話す事…妃陛下にとっては荒唐無稽で信じられない話だと思いますが全て真実です。聞いて頂けますか?」
と言うと、セーラの前に回った。月明かりの下、セーラとリカルドは初めて見つめ合った。…いや…初めてではない。
セーラとリカルドはずっと昔。2人がまだ子どもであった時に…出逢っていたのだ。
「実は、私は1度いや…何度も、何度も人生をやり直しているのです」
リカルドの告白にセーラは息を飲んだ。
…まさか…リカルドも?セーラの顔は青ざめた。それを見たリカルドは、セーラに自分の頭がおかしくなったと勘違いされたと思い、はっきりと、
「妃陛下が信じられないのも無理はありません。しかし…本当なのです。事実…私は何度も何度も…殺されました」
今度こそ、セーラは我慢出来ずに声を漏らした。
「どうして…どうして…貴方に記憶が残っているの…?」
と。
それを聞いて驚いたのはリカルドだ。信じてもらえない話だろうとは思っていたが、セーラの口から出た言葉は予想すらしていなかった。
驚いたリカルドが黙っていると、
「貴方には…自分が殺された記憶があるの?それなのに…何度も何度も…その地獄を味わったと言うの?…私のせいで…私のせいだわ…」
そうセーラは言うと、セーラの瞳からはポロポロと涙が零れた。
思わず、リカルドはその涙を指で拭うと、
「妃陛下…私の言葉を信じて下さったのですね?そして、妃陛下も…秘密を抱えているのでは?」
とセーラの美しい瞳を覗き込んだ。
セーラの涙は止まる事はない。リカルドは自分の繰り返した人生について話す事にした。
「私が時を最初に巻き戻したのは……妃陛下…貴女が処刑されたからです」
…セーラは首を傾げる。何度も何度も繰り返した人生の中に、自分が処刑された記憶などない。しかし、リカルドは続けて、
「妃陛下は、国家反逆罪に問われ、その生涯を終えました。私がそれを知ったのは隣国との小競り合いを終え、王都へ報告に来た時でした。既に…貴方の亡骸は墓地へと埋葬されていて…私は…私は…その墓地で貴方を助けたかったと…声をあげて泣きました。泣いて…泣いて…ふと気づくと、辺りは真っ暗になっていた。そこで…声が聞こえました。『願いを叶えたいか?』と。私は一も二もなくその声にすがり付いた。…どうしても貴方を…救いたかった。そこで目の前が真っ暗になって…気づくと…3ヶ月前に戻っていました。
私はそこから、どうにかして貴方を助けようと色々な策を練った。……貴女の罪は冤罪だったが、真犯人はわからないまま。…それならば、私が犯人になれば良いと思った。その案は…案外上手くいきました。
私は犯罪者として裁かれる事になりましたが…貴女を救う事が出来た。それで良かったんだ。なのに…私が処刑された瞬間…また3ヶ月前に戻ってしまっていたのです」
セーラはリカルドの話に驚くばかりだ。
時を巻き戻している事が信じられないのではない。自分だって何度も繰り返した。セーラが驚いているのはそこではない。
セーラはリカルドが話始めてからずっと黙って聞いていたのだが、我慢出来ずに口を挟んだ。
「では2回目に戻った時も…私を助ける為に?」
「はい、そうです。2回目も上手く自分が罪を被る事が出来ました。…なのに、私が死んだ途端に3ヶ月前に戻されてしまうのです。…何が何だかわかりませんでしたが、私は何回でも同じ事をしました。貴女を救う為なら、自分の命など、どうでも良かった。しかし…何回繰り返しても、3ヶ月前に戻ってしまう。私は1つの仮説を立てました。…私が『死』を選ぶと、またやり直しをさせられる。私は死ぬべきではないのではないか…そう考えましたが、それで貴女がこの世から消えてしまうのは本末転倒です。ですから、今回…私は、今まで何もして来なかった…小競り合いだけは直ぐに片付けましたが、今までと全く違う行動をとる事にしたのです。…それが、今です。事実を貴女に話して…そして貴女と一緒に…生きよう、そう考えました」
リカルドはそう言うと、セーラの肩に手を置いた。
セーラの答えを待つように。
今までならば、舞踏会で陛下とリカルドが対立し、それを多くの貴族が目撃してしまう。その事でリカルドの立場はどんどんと悪くなっていく…筈だった。
しかし、今回はどうだ。…リカルド自身の姿すら、セーラは見ることもなかった。
もしかしたら…今度こそ彼を救えるのではないか…そんな事を考えてしまう。
セーラはますます目が冴えてしまった。
眠れなくなったセーラは寝台を降り、ガウンを羽織った。
月が綺麗な晩だ。月明かりが青白く部屋の中を照らしていた。
セーラは誘われるようにバルコニーに続く窓へと近づく。
ふと…何かが見えた気がした。
セーラはそっと窓を開け、バルコニーへと体を滑らせる。すると、いきなりセーラは背後から抱き締められる様に口を手で覆われた。
恐怖が体を支配する。…声は出せなかった。
セーラの背後の人物が、セーラへと声を掛ける。
「驚かせてしまって申し訳ありません。怪しい者ではありません」
セーラはその声の主を知っていた。思わず体の力が抜けるが、口は塞がれている為、声は出せない。
背後の人物は続けて、
「声を…出さないと約束して下さいますか?手荒な真似は…致しませんので」
と小声でセーラへと話しかけた。その声はどこか切羽詰まっているようにセーラには思えた。
セーラは声を出せない為、代わりに大きく頷いた。彼が困る事など…するつもりはない。安心して欲しくて、セーラは自分の口を覆っていた大きな手の甲をそっと撫でた。
彼もセーラの気持ちがわかったのだろうか?
ゆっくりと手を離すと、また小声で、
「私の名は…」
と名乗ろうとした。
それをセーラは遮るように、彼にだけ聞こえるぐらいの声で、
「リカルド・ローレンス辺境伯様ですね?」
と、愛しい人の名前を呼んだ。
心の中で繰り返し、繰り返し呼んだ名前だが、口に出すのは初めてだった。
「私の事…よくわかりましたね」
セーラには当たり前の事だが、その理由を告げる事は出来ない。
セーラが黙っていると、
「こんな場所に忍び込んだ無礼をお詫びいたします。しかし…どうしても妃陛下に聞いていただきたい話があるのです」
とリカルドはここへ来た理由について話しをしたいと言った。
セーラはまた大きく頷いた。背中に感じる彼の温もりに泣きそうになる。
何度も何度も繰り返した人生の中で、彼にここまで近づいたのは初めてだ。
リカルドは、
「今から私が話す事…妃陛下にとっては荒唐無稽で信じられない話だと思いますが全て真実です。聞いて頂けますか?」
と言うと、セーラの前に回った。月明かりの下、セーラとリカルドは初めて見つめ合った。…いや…初めてではない。
セーラとリカルドはずっと昔。2人がまだ子どもであった時に…出逢っていたのだ。
「実は、私は1度いや…何度も、何度も人生をやり直しているのです」
リカルドの告白にセーラは息を飲んだ。
…まさか…リカルドも?セーラの顔は青ざめた。それを見たリカルドは、セーラに自分の頭がおかしくなったと勘違いされたと思い、はっきりと、
「妃陛下が信じられないのも無理はありません。しかし…本当なのです。事実…私は何度も何度も…殺されました」
今度こそ、セーラは我慢出来ずに声を漏らした。
「どうして…どうして…貴方に記憶が残っているの…?」
と。
それを聞いて驚いたのはリカルドだ。信じてもらえない話だろうとは思っていたが、セーラの口から出た言葉は予想すらしていなかった。
驚いたリカルドが黙っていると、
「貴方には…自分が殺された記憶があるの?それなのに…何度も何度も…その地獄を味わったと言うの?…私のせいで…私のせいだわ…」
そうセーラは言うと、セーラの瞳からはポロポロと涙が零れた。
思わず、リカルドはその涙を指で拭うと、
「妃陛下…私の言葉を信じて下さったのですね?そして、妃陛下も…秘密を抱えているのでは?」
とセーラの美しい瞳を覗き込んだ。
セーラの涙は止まる事はない。リカルドは自分の繰り返した人生について話す事にした。
「私が時を最初に巻き戻したのは……妃陛下…貴女が処刑されたからです」
…セーラは首を傾げる。何度も何度も繰り返した人生の中に、自分が処刑された記憶などない。しかし、リカルドは続けて、
「妃陛下は、国家反逆罪に問われ、その生涯を終えました。私がそれを知ったのは隣国との小競り合いを終え、王都へ報告に来た時でした。既に…貴方の亡骸は墓地へと埋葬されていて…私は…私は…その墓地で貴方を助けたかったと…声をあげて泣きました。泣いて…泣いて…ふと気づくと、辺りは真っ暗になっていた。そこで…声が聞こえました。『願いを叶えたいか?』と。私は一も二もなくその声にすがり付いた。…どうしても貴方を…救いたかった。そこで目の前が真っ暗になって…気づくと…3ヶ月前に戻っていました。
私はそこから、どうにかして貴方を助けようと色々な策を練った。……貴女の罪は冤罪だったが、真犯人はわからないまま。…それならば、私が犯人になれば良いと思った。その案は…案外上手くいきました。
私は犯罪者として裁かれる事になりましたが…貴女を救う事が出来た。それで良かったんだ。なのに…私が処刑された瞬間…また3ヶ月前に戻ってしまっていたのです」
セーラはリカルドの話に驚くばかりだ。
時を巻き戻している事が信じられないのではない。自分だって何度も繰り返した。セーラが驚いているのはそこではない。
セーラはリカルドが話始めてからずっと黙って聞いていたのだが、我慢出来ずに口を挟んだ。
「では2回目に戻った時も…私を助ける為に?」
「はい、そうです。2回目も上手く自分が罪を被る事が出来ました。…なのに、私が死んだ途端に3ヶ月前に戻されてしまうのです。…何が何だかわかりませんでしたが、私は何回でも同じ事をしました。貴女を救う為なら、自分の命など、どうでも良かった。しかし…何回繰り返しても、3ヶ月前に戻ってしまう。私は1つの仮説を立てました。…私が『死』を選ぶと、またやり直しをさせられる。私は死ぬべきではないのではないか…そう考えましたが、それで貴女がこの世から消えてしまうのは本末転倒です。ですから、今回…私は、今まで何もして来なかった…小競り合いだけは直ぐに片付けましたが、今までと全く違う行動をとる事にしたのです。…それが、今です。事実を貴女に話して…そして貴女と一緒に…生きよう、そう考えました」
リカルドはそう言うと、セーラの肩に手を置いた。
セーラの答えを待つように。
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