死にたがりのうさぎ

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
30 / 34

眠れない夜

しおりを挟む

少しずつ、少しずつ、少しずつ。
誰かさんの足音が近付いて来ている。

ねぇ、誰かさん。あなたはどんな格好をしているの?
皆のイメージ通り黒いマントに大きなカマを担いでいるのかな?それとも全く予想出来ない姿なのかな?

出来れば怖い姿じゃないと良いな……。

急に意識が浮上する。
目を開けると、暗い中に見慣れない天井。……そうだここは病室だ。

少しずつ私の二つの意識が重なっていく感覚を覚える。
体と魂が少しずつ離れている時間が長くなっているんじゃないかと不安になって、私は胸の辺りをギュッと掴んだ。

「……ミミ」

「どうした?痛む?」

「ううん」

「眠れない?」

「うん。昼間寝すぎた」

薬が増えるに従って、ウトウトしている時間が長くなる。
意識が曖昧な時間が増えると不安になる。その間の私は、ちゃんと私なのだろうか?

「何か話す?」

ミミは体を起こして、布団を片付けると椅子を持って来て私の側に座った。

「ミミは眠いでしょう?」

「おばさんと一緒。昼間仮眠取ってるから、そんな眠くないよ」
と言うミミは必死に欠伸を噛み殺している様子。ごめんね、起こして。

それから十分もすると、私は再び眠気を感じる。少し話しただけなのに……もっとミミと話していたいのに。

「寝ていいよ」
私の眠たそうな気配にミミがそう言う。

「ミミ、手を繋いでてくれる?」
私は少し甘えてみた。

抱き抱えられる事は良くあるけど、手を繋ぐ事はない。……手を握られた事はあったけど。

ミミは何も言わずに私の手を握った。

「温かいね」
と私が言うと、ミミは繋いだ手をそのまま布団の中に入れた。

「昼間はまだ暖かい時も多いけど、夜になると、すっかり肌寒くなったからな。冷えたらダメだろ。折角俺の手が温かいのに」
とミミは言う。

「何だか、秋がなくなっちゃったね」

「そうだな」

「直ぐ冬になっちゃう」

「そん時はまた、手を繋ごう。冷えてしまわないように」

「うん。……ありがとう」
私は瞼を閉じる。

朝、目が覚めますように。またミミの顔を見られますように。そう祈りながら。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命3年の君が綴った、まだ名前のない物語。

りた。
ライト文芸
余命3年を宣告された高校1年生の橋口里佳。夢である小説家になる為に、必死に物語を綴っている。そんな中で出会った、役者志望の凪良葵大。ひょんなことから自分の書いた小説を演じる彼に惹かれ始め。病気のせいで恋を諦めていた里佳の心境に変化があり⋯。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Husband's secret (夫の秘密)

設樂理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...