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やらなくてはならない事
しおりを挟む「今日は少し酷な話をしなくちゃならない」
先生の顔に笑顔はない。そろそろかと自分も考えていた。
「いつ、状態が急に悪くなるかわからない。呼吸が苦しくなった時、酸素吸入はしても良いね」
「はい」
「痛みや呼吸の状況が悪化してどうにもならなくなったら、モルヒネを使って欲しいっていう希望があったね。それは変わりないよね?」
「もちろんです」
「昏睡状態に陥ってからモルヒネを持続投与すると、そう長くはもたない。それを覚悟しておいて欲しい」
……その覚悟はきっと……私ではなく……。
「はい。母の時に経験しているので」
「そうだったね。なら、それまでにやるべき事を……」
「はい。葬儀社については決めていますので、大丈夫です」
私には葬儀社を営む友人がいた。母の時にも本当にお世話になった。彼には病気になった時に連絡している。ただ……まだミミにはそれを伝えていない。
また悲しい顔をさせてしまうのか……と思うが、最期の時を二人で過ごすと決めたのだ。お互い覚悟が必要なのはわかっている。
「ミミ、遺影はこれが良い。ミミのスマホに送っとくから」
「……葬式は出ないってば」
「でも英二兄ちゃんが直ぐ来るって言っても一日、二日はかかるよ。それまでに葬儀社の人に言われるから」
私の話にミミは渋々頷いて、私から送られた写真を開く。
「これ、いつの?」
「去年の社員旅行」
「何処に行ったの?」
「温泉だよ。気持ちよかった」
私と同僚が一緒におさまるその写真は中々良く撮れていると思う。
最近の人は写真を加工+加工で元の顔がわからなくなる程らしいけど、おばちゃんはあくまで自然体だ。
「ちっせぇな」
背が低い事をコンプレックスに感じている私は、
「悪かったね」
と膨れた。
「隣の人は?」
「同僚。社会人になってから友達作るのって難しいって聞いたけど、凄く気が合ったの」
「まぁ、職場に友達作りに行ってる訳じゃないしな」
「確かにね。でも職場の愚痴を同じ熱量で聞いてくれる人がいるのって、結構嬉しいもんなんだよね。学生時代の友達とはまた少し違う感じ」
「この人の連絡も無視してる?」
「うん。『お葬式に来てくれたら良いから』って言ったら凄く怒られちゃった」
「おばさんが死んだって分からないのに、どうやって葬式に来るんだよ」
「あ!そっか。そうだね……それなら仕方ないかな?」
と私が笑えば、
「もし……連絡先消してないなら、教えて。俺が連絡するから」
とミミが言う。
「ごめん、消しちゃった」
って言う私に、ミミは
「そっか」
と言って自分のスマホを仕舞った。
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