23 / 34
贈り物
しおりを挟むロウソクの火を吹き消す肺活量も無くなっていた様で、苦労している私の横からミミがそっと吹き消した。
「もう三十四かぁ。もっとそれぐらいの歳って、しっかりするもんだと思ってた。
子どもの頃って自分が三十歳なんて想像もしてなかったし、高校の時なんて、それぐらいの先生が凄く大人に見えていたんだけどな」
「それ、わかる。自分も成人したら自動的に大人になれるんだと思ってた」
「大人になるのって難しいね」
「でも子どものままでいるのも難しくね?」
……確かにそうかもな。歳をとれば責任だけは増えていく。大人になりきれない大人も増えていくわけだ。
「経験だけは増えるから、出来る事は増えるよね」
「それが子どもとの差なのかもな」
大人って、経験値だけは増えていくから、自分を誤魔化しながら大人のふりをする事が上手くなるだけなのかもしれない。
「ケーキ、食える?」
「ちょっとだけなら」
私はケーキをほんのちょこっとだけフォークで掬って口に入れた。
最近は味覚も曖昧だけど、このチーズケーキはとても甘い味がした。
「私がチーズケーキ好きなこと、よく知ってたね」
ミミに話した事があったっけ?自分の記憶力の方が危なげだ。
「俺、意外と記憶力が良いんだよ」
本当に意外だ。私がついニヤけると、
「暗記だけは得意だったから」
とミミは口を尖らせた。その顔に、私はまた笑顔になる。
すると、ミミは立ち上がって、自分の部屋へと向かって行ったかと思うと何かを持って戻って来た。
「ほら、これ」
とミミは私に一枚の紙を差し出した。
そこには一人の女性の肖像画が描いてあった。
そしてその女性はにっこりと笑っていた。
「これ……私?」
「何?不服?」
「ううん。そんな事ない。実物より可愛い」
「そこはサービスな」
ミミがコソコソと隠していた物。それはこれだったのだ。
ミミは元々イラストレーター志望だった。色んな絵を描いてはSNSに投稿していたらしい。
たまたまネットで知り合った友達に、SNSに上げる前の下書きの様なイラストを見せたら、いつの間にかその絵はトレスされ色付けされ、ミミがSNSに投稿する前に、その友達が公表してしまった。……自分の絵として。
それを知らずにミミがその後SNSにその絵を投稿すると、たちまちトレスだと炎上したのだ。
本当は自分の絵だと主張しても、相手はミミよりも大きなコミュニティを持っていて、太刀打ち出来なかった。
信じていた……友達と思っていた……あの日のファミレスでデザートを食べながらミミから聞いた話を私は思い出していた。
あ……あの時、私が食べていたデザートって……そういえばチーズケーキだったな。
81
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる