19 / 34
少し先にある恐怖
しおりを挟む
「終末期せん妄っていうのがあってね。幻視や幻聴があったり、人格が変わってしまったりする症状なの」
病院側の好意で、ミミは私の側にずっと付き添う事が許可された。わがままな患者の見本のような私に寄り添ってくれた、この病院には感謝しかない。
最初は化学療法を拒否した私に困っていた医師も、最終的には私の意思を最大限に考慮して、尚且つ私の苦痛を取り除く事に尽力してくれている。
今日は天気も良く、私の調子も悪くなかったので、車椅子で病院の庭を散歩していた。もちろん押すのはミミだ。
私の言葉に、
「そんなのあるんだ」
と呟いた。
「だから、もっと症状が深刻になったら、ミミの事、わからなくなっちゃうかも。ごめんね」
ミミの顔をしっかり見ながら言えなかった私は、今のタイミングなら言える気がして散歩の途中で打ち明けた。
私は『これ』が来るのが怖かったから。
母の時に経験したこの終末期せん妄は、私を困惑させた。母が母でなくなっていく様子に胸を痛めた。
だから、ミミにそんな思いをさせるのは、怖かったし、申し訳なかった。
「いいよ。それでも」
ミミはそれだけしか言わなかった。
今、ミミはどんな顔をしているのだろう。でも私には振り返ってそれを確認する勇気はなかった。
どんどんと使う麻薬の量は増えていく。食事は固形物を取る事が難しくなったので、高カロリーの流動食になった。
私が『不味い』と顔を顰めると、ミミもそれを味見しては『不味い』と同じ様に顔を顰めた。
それでも私は痩せていった。生まれてこの方『痩せてるね』と言われた事は一度もなかった。中肉中背いや……背は低かったか。
一度で良いから『スタイル良いね、痩せてるね』って言われてみたかったが、今じゃない。それに私の望んだスタイルでもない。
『食べる事が出来る』それがどれだけ幸せな事か、私は今、身を持って体験していた。
病院側の好意で、ミミは私の側にずっと付き添う事が許可された。わがままな患者の見本のような私に寄り添ってくれた、この病院には感謝しかない。
最初は化学療法を拒否した私に困っていた医師も、最終的には私の意思を最大限に考慮して、尚且つ私の苦痛を取り除く事に尽力してくれている。
今日は天気も良く、私の調子も悪くなかったので、車椅子で病院の庭を散歩していた。もちろん押すのはミミだ。
私の言葉に、
「そんなのあるんだ」
と呟いた。
「だから、もっと症状が深刻になったら、ミミの事、わからなくなっちゃうかも。ごめんね」
ミミの顔をしっかり見ながら言えなかった私は、今のタイミングなら言える気がして散歩の途中で打ち明けた。
私は『これ』が来るのが怖かったから。
母の時に経験したこの終末期せん妄は、私を困惑させた。母が母でなくなっていく様子に胸を痛めた。
だから、ミミにそんな思いをさせるのは、怖かったし、申し訳なかった。
「いいよ。それでも」
ミミはそれだけしか言わなかった。
今、ミミはどんな顔をしているのだろう。でも私には振り返ってそれを確認する勇気はなかった。
どんどんと使う麻薬の量は増えていく。食事は固形物を取る事が難しくなったので、高カロリーの流動食になった。
私が『不味い』と顔を顰めると、ミミもそれを味見しては『不味い』と同じ様に顔を顰めた。
それでも私は痩せていった。生まれてこの方『痩せてるね』と言われた事は一度もなかった。中肉中背いや……背は低かったか。
一度で良いから『スタイル良いね、痩せてるね』って言われてみたかったが、今じゃない。それに私の望んだスタイルでもない。
『食べる事が出来る』それがどれだけ幸せな事か、私は今、身を持って体験していた。
96
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる