13 / 34
入院
しおりを挟む
入院の用意をすると言って、ミミは家へと一旦帰った。
少し前に流行った感染症のせいで家族しか面会出来ないと言われたが、私には誰も居ない。
ミミが必死で病院側に頼み込んでいるのを、点滴を受けながら横目で見ていた。
結局、病院側がミミの言う事をを受け入れてくれたのは、私の病状のせいだろう。
ウトウトしていたら、人の気配がした。点滴のお陰でいつの間にか痛みは軽くなっていたようだ。
「……ミミ?」
「ごめん、起こした」
「ううん。ウトウトしてただけ」
「痛み、大分良いのか?」
「うん。随分楽になった」
「そっか」
ミミは大きめの黒いボストンバッグをパイプ椅子の上にポスンと置いた。
「ありがとう」
「うん。クローゼットの中にあったこれで良いんだよな」
とそのバッグを指差す。私がいつ入院になっても良い様に用意していた物だ。
「そう。もし足りないものあったら売店で買うから」
「言えば買ってくる」
ミミはもう一つのパイプ椅子を開いて、それに座った。
「男が来てた」
ミミがそう言った。
「男?誰?」
私には本気でピンと来ない。
「『英二』って言ってたよ。会いたいって」
その名は私のスマホにミミ以外で唯一残された連絡先の名だった。
「私が自分の後始末を色々と頼んでる親戚」
「あぁ。前にそんな事言ってたな。おばさんが電話にも出てくれないし、メッセージにも返信がないからどうなったのか心配で来たって」
「……誰にも会いたくなくて、全部無視してるから」
会社の先輩、同僚、後輩。学生時代の友人。全てブロックした。
でもちゃんと理由は話している。病気の自分を、弱った自分を見せたくない。
それでも会いたいと言ってくれた友人は泣いていた。それでも私は会わなかった。
お葬式には来てよと言った友人は本気で怒っていた。それでも私は会わなかった。
私の事なんて忘れてほしい。いつの日か忘れ去られてしまうなら、今すぐ忘れてもらって構わない。ミミにそう言ったら……どんな反応をするのだろう。私は少しだけ……ほんの少しだけ気になった
少し前に流行った感染症のせいで家族しか面会出来ないと言われたが、私には誰も居ない。
ミミが必死で病院側に頼み込んでいるのを、点滴を受けながら横目で見ていた。
結局、病院側がミミの言う事をを受け入れてくれたのは、私の病状のせいだろう。
ウトウトしていたら、人の気配がした。点滴のお陰でいつの間にか痛みは軽くなっていたようだ。
「……ミミ?」
「ごめん、起こした」
「ううん。ウトウトしてただけ」
「痛み、大分良いのか?」
「うん。随分楽になった」
「そっか」
ミミは大きめの黒いボストンバッグをパイプ椅子の上にポスンと置いた。
「ありがとう」
「うん。クローゼットの中にあったこれで良いんだよな」
とそのバッグを指差す。私がいつ入院になっても良い様に用意していた物だ。
「そう。もし足りないものあったら売店で買うから」
「言えば買ってくる」
ミミはもう一つのパイプ椅子を開いて、それに座った。
「男が来てた」
ミミがそう言った。
「男?誰?」
私には本気でピンと来ない。
「『英二』って言ってたよ。会いたいって」
その名は私のスマホにミミ以外で唯一残された連絡先の名だった。
「私が自分の後始末を色々と頼んでる親戚」
「あぁ。前にそんな事言ってたな。おばさんが電話にも出てくれないし、メッセージにも返信がないからどうなったのか心配で来たって」
「……誰にも会いたくなくて、全部無視してるから」
会社の先輩、同僚、後輩。学生時代の友人。全てブロックした。
でもちゃんと理由は話している。病気の自分を、弱った自分を見せたくない。
それでも会いたいと言ってくれた友人は泣いていた。それでも私は会わなかった。
お葬式には来てよと言った友人は本気で怒っていた。それでも私は会わなかった。
私の事なんて忘れてほしい。いつの日か忘れ去られてしまうなら、今すぐ忘れてもらって構わない。ミミにそう言ったら……どんな反応をするのだろう。私は少しだけ……ほんの少しだけ気になった
68
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる