死にたがりのうさぎ

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
8 / 34

旅行

しおりを挟む
早く起きなきゃいけない時に限って、何故か遅刻する夢を見る。
夢占いではストレスの現れとか、チャンスを逃す警告とか書かれているのを読んだ事があるけど、私としては『絶対遅れられない!!』という強迫観念の現れなのではないかと感じている。
これは個人的見解。


「最近、ミミって早起きよね」

「やること多いからな」

私が作った朝食のおにぎりを頬張りながら、ミミは答えた。前は朝食なんていらないって言ってたくせに、今は私と同じ『朝食はモリモリ食べる派』に大変身。

掃除や片付け、洗濯までぜーんぶやってくれるミミだが、料理だけは頑なにやらない。
『料理は苦手』なんて言ってるけど、多分私の手料理が食べたいだけなのだと、私は推測している。天邪鬼なミミは絶対に認めないだろうな。


「火の元、戸締まり、全部OK!」

「なら行くぞ」

私のくすみピンクのスーツケースと小さな黒いボストンバッグを持ったミミが車のトランクに荷物を積んだ。

「車もいずれ売らなきゃね」

「そうだな」
と言ったミミは運転席に乗り込んだ。

私の愛車も、もうすぐお役御免だ。私はポンポンと車のルーフを軽く叩いてから助手席に乗り込んだ。

新幹線や飛行機を使うことも考えたが、ミミが私の体調を心配して車での旅行となった。
長距離の運転は初めてだと言うミミに、

「いつでも代わるよ。免許証は持ってきてるし」
と私は言った。

人は向かい合って喋るより、横並びの方が本音で話しやすいのだと何かの本で読んだ。

「ミミのご両親は?」

私はこの際だとミミに質問する。ずっと二人で居るのに、私はミミのプライベートを知らない。死にたがりの理由は知っているが、それ以外は私達二人に必要ないと思っていた。

「母親は健在。父親は知らね」

「離婚?」

「だな」

「お母様は?」  

「どっかの飲み屋で働いてるんじゃないかな?あんまり長続きする人じゃないから、転々としてたし」

「子どもの頃から?」  

「転校ばっかだったよ。お陰で親友と呼べる友達も居ない」

「あるあるだね」

「仲良くなっても、すぐ引っ越しで離れ離れになるからな。だから誰とも深く関わらずに生きてきた」

「お母様を恨んでる?」

「いいや。俺と弟を育てる為に頑張ってくれてたんだと思うから」

「弟居るんだ」

「うん。今年二十歳になるかな」

「ふーん。ミミに似てる?」

「いや。あんま似てない」
ハンドルを握りながらミミは苦笑する。その顔は穏やかで、兄弟仲が悪くない事が窺えた。

「連絡は取ってる?」

「いや、全然。だけど、何かあったら連絡くるだろうから心配してない。お互いに」

男の子とはこんなものなのだろうか?母は私に過保護なくらい過干渉だった。それをうざいと思っていた時期もあったが、もうそれも懐かしい過去だ。

ちょっとだけミミの事を知れた気がして、少し得した気分になる。
私達は休憩を挟みながら、最初の宿に到着した。

大阪では有名なテーマパークを満喫し、粉もんに舌鼓を打った。最近では少し食欲が落ちて来た私の分まで食べるミミは『最近太った気がする』とお腹を擦った。

京都や奈良では私が大好きな仏像を堪能する。
『修学旅行以来だな』と言うミミには、仏像の魅力はわからなかったらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...