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線香花火
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「今日は花火をしようよ」
「夏は終わったけど?」
「でもまだ暑いし。それに花火はいつやっても綺麗だもん」
私はドラッグストアで値引きされた花火を手に取りながら、ミミにそう言った。
三割引き!と大きく書かれた値引きのシールは夏の終わりを物語っている様だ。
「明日からの旅行の準備は済んだ?」
最近はミミの方がお母さんみたいだ。
「済んだよ。ちゃんとパッキングした」
明日からは関西方面へ旅行する。大阪、奈良、京都を回って、私の熱烈な希望である和歌山へ。パンダを愛でに行く予定。
「薬だけは忘れるなよ」
「わかってる。他は忘れてもそれは忘れないよ」
と私は答えた。
痛みが増して来ている。この前病院で強い痛み止めに変更して貰ったばっかりだ。
ミミは最近、私の隣で眠る様になった。私が痛みでうなされた時、側に居たいのだそうだ。
「あ~あ。もうちょっと時間があったら、海外旅行にも行きたかったな」
と言う私の言葉にミミの表情が曇る。……ナーバスになり過ぎだ。
「俺はパスポート持ってないから、付いて行けないよ。英語も喋れないし」
と言うミミの言葉に私は微笑んだ。誘ってなくても、私が行く所には付いて来るものだと思っているミミが愛しい。
「英語かぁ……私も別に喋れないけど何とかなるもんだよ。ねぇ、もし行けるとしたら、何処に行きたい?海外」
「え~。どうだろ。別に海外に憧れもないしな……どこでもいいよ。おばさんが行きたい所で」
ほらね、結局私を優先してくれるミミは優しさの塊だ。
「私はね~ハワイ!!」
「ベタだね」
「アメリカは行ったことあるけど、ハワイは行ったことないんだもん」
「ハワイもアメリカじゃね?」
……おっしゃる通り。
「ハワイの海って、やっぱり綺麗かな」
「多分、綺麗だろうな」
「綺麗な海に沈む夕日を見たいなぁ」
と言う私に、ミミは何も答えなかった。
「線香花火は最後って決まってるから」
「何その謎ルール」
派手な手持ち花火や小さな打ち上げ花火を思う存分二人で堪能した後は、お決まりの線香花火。夏……はもう終わったけど、これぞ夏の締め括りといった感じだ。
「どっちが長く保たせられるか勝負!!」
二人で線香花火に火をつけた。
「何を賭ける?」
とミミが言う。
「うーん……お風呂掃除」
「それ、俺の役目ね。他のものにしろよ」
「じゃあ、トイレ掃除」
「それも俺の役目な」
こうして考えると、今は掃除と名のつくものは全てミミの仕事だった。ありがたい。
「じゃあ……おんぶして」
「俺が勝ったらおばさんが俺をおんぶするの?勘弁してよ。年寄り虐める趣味はないよ」
とミミは鼻に皺を寄せた。
「そこまで年寄りじゃないもん」
と私が口を尖らせた瞬間、ミミの線香花火の火の玉が先に地面へと吸い込まれていった。
「あーあ。俺の負けだな」
水を張ったバケツに花火の燃えカスを入れながらミミは言って、
「ほら」
と私の方へと屈んだ背中を見せた。
私は黙ってその背中に身を預けると、ミミは片手でバケツ、片手で私のお尻の下に手を当てて立ち上がった。
「……また痩せたな」
ミミが聞こえるか聞こえないかの声で呟く。ミミにしがみつく私には、その声が背中からくぐもった声で伝わった。
実は知ってる。ミミが線香花火を少し揺らしてわざと負けた事を。
でも私はそれを指摘せず、気づかないふりをした。
「家までおぶって帰ってね」
「はい、はい」
そう言ったミミは私をおぶい直すかの様に少し私を持ち上げる為に体を揺らした。
それから家までは二人共無言だったが、ミミの背中の温かさに私は泣きそうになった。
「夏は終わったけど?」
「でもまだ暑いし。それに花火はいつやっても綺麗だもん」
私はドラッグストアで値引きされた花火を手に取りながら、ミミにそう言った。
三割引き!と大きく書かれた値引きのシールは夏の終わりを物語っている様だ。
「明日からの旅行の準備は済んだ?」
最近はミミの方がお母さんみたいだ。
「済んだよ。ちゃんとパッキングした」
明日からは関西方面へ旅行する。大阪、奈良、京都を回って、私の熱烈な希望である和歌山へ。パンダを愛でに行く予定。
「薬だけは忘れるなよ」
「わかってる。他は忘れてもそれは忘れないよ」
と私は答えた。
痛みが増して来ている。この前病院で強い痛み止めに変更して貰ったばっかりだ。
ミミは最近、私の隣で眠る様になった。私が痛みでうなされた時、側に居たいのだそうだ。
「あ~あ。もうちょっと時間があったら、海外旅行にも行きたかったな」
と言う私の言葉にミミの表情が曇る。……ナーバスになり過ぎだ。
「俺はパスポート持ってないから、付いて行けないよ。英語も喋れないし」
と言うミミの言葉に私は微笑んだ。誘ってなくても、私が行く所には付いて来るものだと思っているミミが愛しい。
「英語かぁ……私も別に喋れないけど何とかなるもんだよ。ねぇ、もし行けるとしたら、何処に行きたい?海外」
「え~。どうだろ。別に海外に憧れもないしな……どこでもいいよ。おばさんが行きたい所で」
ほらね、結局私を優先してくれるミミは優しさの塊だ。
「私はね~ハワイ!!」
「ベタだね」
「アメリカは行ったことあるけど、ハワイは行ったことないんだもん」
「ハワイもアメリカじゃね?」
……おっしゃる通り。
「ハワイの海って、やっぱり綺麗かな」
「多分、綺麗だろうな」
「綺麗な海に沈む夕日を見たいなぁ」
と言う私に、ミミは何も答えなかった。
「線香花火は最後って決まってるから」
「何その謎ルール」
派手な手持ち花火や小さな打ち上げ花火を思う存分二人で堪能した後は、お決まりの線香花火。夏……はもう終わったけど、これぞ夏の締め括りといった感じだ。
「どっちが長く保たせられるか勝負!!」
二人で線香花火に火をつけた。
「何を賭ける?」
とミミが言う。
「うーん……お風呂掃除」
「それ、俺の役目ね。他のものにしろよ」
「じゃあ、トイレ掃除」
「それも俺の役目な」
こうして考えると、今は掃除と名のつくものは全てミミの仕事だった。ありがたい。
「じゃあ……おんぶして」
「俺が勝ったらおばさんが俺をおんぶするの?勘弁してよ。年寄り虐める趣味はないよ」
とミミは鼻に皺を寄せた。
「そこまで年寄りじゃないもん」
と私が口を尖らせた瞬間、ミミの線香花火の火の玉が先に地面へと吸い込まれていった。
「あーあ。俺の負けだな」
水を張ったバケツに花火の燃えカスを入れながらミミは言って、
「ほら」
と私の方へと屈んだ背中を見せた。
私は黙ってその背中に身を預けると、ミミは片手でバケツ、片手で私のお尻の下に手を当てて立ち上がった。
「……また痩せたな」
ミミが聞こえるか聞こえないかの声で呟く。ミミにしがみつく私には、その声が背中からくぐもった声で伝わった。
実は知ってる。ミミが線香花火を少し揺らしてわざと負けた事を。
でも私はそれを指摘せず、気づかないふりをした。
「家までおぶって帰ってね」
「はい、はい」
そう言ったミミは私をおぶい直すかの様に少し私を持ち上げる為に体を揺らした。
それから家までは二人共無言だったが、ミミの背中の温かさに私は泣きそうになった。
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