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第74話
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「お前をエスコートするのも久しぶりだな」
隣で少しウキウキしている父を見て、私は微笑んだ。
「確かにそうですね。ここ最近は夜会に出席する事も少なかったので……」
あの夏の夜会が私にとって久しぶりだった事を父もよく理解していた。
「しかしまぁ……三年間良く頑張ったな。試験もきっと大丈夫だ」
卒業式は恙無く終わり、式典であるこのダンスパーティーが終われば本来ならこの学園ともお別れ。しかし私はここに教師として戻ってくる為の試験があと三日後に迫っていた。
「やれるだけの事はやりました。後は緊張せずに試験を受けるだけだと思っていますが……面接が……」
お喋りが上手ではない私は、そこに不安を覚えていた。
「そうか?最近のお前はオドオドせず、堂々と前を向いている様に見えるがな。落ち着けばきっと上手くいく」
入り口付近で入場の列に並ぶ。まるで夜会そのものだ。もう少しで私達の名前が呼ばれる、前の二人が入場し、次は私達。さぁ一歩踏み出そうかとした時に、
「ちょ!ちょっと、ちょっと待ってくれ……!」
その声に私と父は揃って振り返った。
そこには、入場の列をかき分けながらこちらへ走って来るフェリックス様の姿が。
「フェリックス様?」
私達の所へようやく辿り着いたフェリックス様は肩で息をしている。
「ハァ、ハァ……間に合った」
膝に手をつき、前かがみになりながら息を整えるフェリックス様に、私はもう一度声を掛けた。
「フェリックス様、どうされました?」
「何とか間に合う様に、馬を走らせた。卒業式は一生に一度だろ?どうしてもエスコートしたくて」
何とか息を整え背を伸ばしたフェリックス様の額には汗が滲む。まだ、肌寒い日もあるというのに……随分と急いで駆けつけてくれた様だ。
「殿下の護衛は大丈夫だったのですか?」
その私の言葉に一瞬フェリックス様の顔が曇ったのを私は見逃さなかった。
「まさか殿下に黙って……?!」
「違う!違う!殿下自ら、隊を離れてお前に会いに行っても良いと許可をくれたんだ。それは心配しなくて良い。……じき殿下も到着するだろう」
もしかすると、殿下もステファニー様をエスコートする為にこちらへ向かっているのかしら?
公爵令嬢であるステファニー様の名が呼ばれるまでにはまだ時間がかかる。
十年振りの再会……きっとステファニー様も喜ぶことだろう。
騎士服に身を包んだままのフェリックス様は、
「こんな恰好のままで良かったら、俺にエスコートさせてくれないか?」
と私に手を出した。
私はチラリと父の顔を見る。
「とても寂しいが……娘というのはいつかこうして他の男に盗られてしまうものだ。じゃあ、フェリックス君、後は頼んだよ」
と父は私の手を自分の腕から外し、フェリックス様へと差し出した。
「ありがとうございます」
フェリックス様が父へ頭を下げる。
その様子に父は満足そうに頷いた。
隣で少しウキウキしている父を見て、私は微笑んだ。
「確かにそうですね。ここ最近は夜会に出席する事も少なかったので……」
あの夏の夜会が私にとって久しぶりだった事を父もよく理解していた。
「しかしまぁ……三年間良く頑張ったな。試験もきっと大丈夫だ」
卒業式は恙無く終わり、式典であるこのダンスパーティーが終われば本来ならこの学園ともお別れ。しかし私はここに教師として戻ってくる為の試験があと三日後に迫っていた。
「やれるだけの事はやりました。後は緊張せずに試験を受けるだけだと思っていますが……面接が……」
お喋りが上手ではない私は、そこに不安を覚えていた。
「そうか?最近のお前はオドオドせず、堂々と前を向いている様に見えるがな。落ち着けばきっと上手くいく」
入り口付近で入場の列に並ぶ。まるで夜会そのものだ。もう少しで私達の名前が呼ばれる、前の二人が入場し、次は私達。さぁ一歩踏み出そうかとした時に、
「ちょ!ちょっと、ちょっと待ってくれ……!」
その声に私と父は揃って振り返った。
そこには、入場の列をかき分けながらこちらへ走って来るフェリックス様の姿が。
「フェリックス様?」
私達の所へようやく辿り着いたフェリックス様は肩で息をしている。
「ハァ、ハァ……間に合った」
膝に手をつき、前かがみになりながら息を整えるフェリックス様に、私はもう一度声を掛けた。
「フェリックス様、どうされました?」
「何とか間に合う様に、馬を走らせた。卒業式は一生に一度だろ?どうしてもエスコートしたくて」
何とか息を整え背を伸ばしたフェリックス様の額には汗が滲む。まだ、肌寒い日もあるというのに……随分と急いで駆けつけてくれた様だ。
「殿下の護衛は大丈夫だったのですか?」
その私の言葉に一瞬フェリックス様の顔が曇ったのを私は見逃さなかった。
「まさか殿下に黙って……?!」
「違う!違う!殿下自ら、隊を離れてお前に会いに行っても良いと許可をくれたんだ。それは心配しなくて良い。……じき殿下も到着するだろう」
もしかすると、殿下もステファニー様をエスコートする為にこちらへ向かっているのかしら?
公爵令嬢であるステファニー様の名が呼ばれるまでにはまだ時間がかかる。
十年振りの再会……きっとステファニー様も喜ぶことだろう。
騎士服に身を包んだままのフェリックス様は、
「こんな恰好のままで良かったら、俺にエスコートさせてくれないか?」
と私に手を出した。
私はチラリと父の顔を見る。
「とても寂しいが……娘というのはいつかこうして他の男に盗られてしまうものだ。じゃあ、フェリックス君、後は頼んだよ」
と父は私の手を自分の腕から外し、フェリックス様へと差し出した。
「ありがとうございます」
フェリックス様が父へ頭を下げる。
その様子に父は満足そうに頷いた。
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