73 / 129
第73話
しおりを挟む
「お久しぶりです、デービス様」
「本当だね。相変わらず忙しいの?」
「はい。卒業式もあるし、結婚式も半年後に決まりましたし……。ところでデービス様、私に言う事ありません?」
私がデービス様の向かいに腰掛けながら問いかけると、彼は苦笑いした。
「仕方ないだろ?フェリックス殿に頼み込まれたら断れなくて」
「ステファニー様の時には断ったのに?」
「……意地悪言わないでくれよ。僕としては君のドレスを作るって言うからローレンの事を教えたんだ。ステファニー嬢のドレスって言うんだったら、絶対に教えなかったさ」
「フフフッ。ありがとうございます。お陰で卒業式でも、またローレンさんの素敵なドレスを着る事が出来そうです。本当はあの夜会のドレスを着て出席しようと思っていたのですが、アイーダ様にそれを言ったら呆れられちゃいました」
私が肩を竦めると、デービス様はホッとした様子だった。
「それを聞いて安心したよ。メグにご令嬢として恥をかかせなくて済んだって事だね。
でも……あの時のフェリックス殿は必死だったなぁ……『夏の夜会のマーガレットは悔しいけれど、とても可愛かった。あのドレスを何処で買ったのか教えてくれ!』ってね。僕が渋ると、自分が今までどれだけ阿呆だったのかを語って聞かせてくれてね……興味深かったよ、ある意味」
デービス様はその時を思い出しているのか、クスクスと笑った。
「悔しいって……」
「あのドレスを用意したのが僕だった事が、今更ながら悔しかったらしいよ。それと……今までずっと君の隣に立つ権利を放棄していた事もね」
「そうですか……」
私は少し恥ずかしくなって俯いた。そんな私にデービス様は静かな声で言った。
「でも……今日会えて良かったよ。僕……明日この国を発つ予定なんだ」
「明日?!そんな、急に……」
私は動揺して聞き返した。
「少し前に……父が亡くなったらしいんだ。その話をつい先日聞いてね。もう葬儀も何もかも済んでしまったらしいんだが……一度国へ帰るつもりだ」
「でも………」
その国と家を捨てたのはデービス様だ。私は少し心配になる。デービス様が戻る事で、また実家の義母とトラブルになるのではないか……と。
「大丈夫。実家には近寄らない。別に亡命した訳じゃないし、もう実家は弟が継いでいる。僕はあの家とは関係ない人間だよ。……でも、父は父だ。墓前に花ぐらい手向けたいと思ってね」
「そうでしたか……。デービス様がそうお決めになったのなら。気をつけて」
私にはそれが精一杯の言葉だった。
「おいおい、そんな悲痛な顔をしないでくれよ。もう済んだ事だ。僕にとっては全て過去だよ。過去に囚われていては前に進めない。きっとこれは僕にとって必要な事なんだよ。それに……そのまま僕は世界中を旅するつもりだ。今から楽しみなんだ。旅先から手紙を書くよ。君もいつか……いや、それは彼が許しそうにないな」
そう笑うデービス様の顔は晴れ晴れとしていた。
「デービス様からのお手紙、楽しみに待っています。いつか……私もデービス様の様に旅をしてみたいです。……叶うなら、ですが」
私もそう言って笑った。
本当は寂しい。もうこの図書館に来てもデービス様は居ない。そう思うと少し泣きそうになるのをグッと私は我慢して、右手を差し出した。
「この場所でデービス様に出会えて、本当に良かった。デービス様の書いた小説を楽しみにしていますね」
「僕もだ。この国を好きになれた理由に、間違いなく君の存在がある。君の様に純粋に物語を楽しんでいる人が居ると思うと、僕も頑張って本を書こうって思えるよ。君の様な人達に僕の物語を届けられるように……ってね」
そう言ってデービス様は差し出した私の右手をキュッと握って、私達は固い握手を交わす。
デービス様は最後に、
「幸せになるんだよ。君はもっと欲張りになって良いんだ」
と笑った。
「本当だね。相変わらず忙しいの?」
「はい。卒業式もあるし、結婚式も半年後に決まりましたし……。ところでデービス様、私に言う事ありません?」
私がデービス様の向かいに腰掛けながら問いかけると、彼は苦笑いした。
「仕方ないだろ?フェリックス殿に頼み込まれたら断れなくて」
「ステファニー様の時には断ったのに?」
「……意地悪言わないでくれよ。僕としては君のドレスを作るって言うからローレンの事を教えたんだ。ステファニー嬢のドレスって言うんだったら、絶対に教えなかったさ」
「フフフッ。ありがとうございます。お陰で卒業式でも、またローレンさんの素敵なドレスを着る事が出来そうです。本当はあの夜会のドレスを着て出席しようと思っていたのですが、アイーダ様にそれを言ったら呆れられちゃいました」
私が肩を竦めると、デービス様はホッとした様子だった。
「それを聞いて安心したよ。メグにご令嬢として恥をかかせなくて済んだって事だね。
でも……あの時のフェリックス殿は必死だったなぁ……『夏の夜会のマーガレットは悔しいけれど、とても可愛かった。あのドレスを何処で買ったのか教えてくれ!』ってね。僕が渋ると、自分が今までどれだけ阿呆だったのかを語って聞かせてくれてね……興味深かったよ、ある意味」
デービス様はその時を思い出しているのか、クスクスと笑った。
「悔しいって……」
「あのドレスを用意したのが僕だった事が、今更ながら悔しかったらしいよ。それと……今までずっと君の隣に立つ権利を放棄していた事もね」
「そうですか……」
私は少し恥ずかしくなって俯いた。そんな私にデービス様は静かな声で言った。
「でも……今日会えて良かったよ。僕……明日この国を発つ予定なんだ」
「明日?!そんな、急に……」
私は動揺して聞き返した。
「少し前に……父が亡くなったらしいんだ。その話をつい先日聞いてね。もう葬儀も何もかも済んでしまったらしいんだが……一度国へ帰るつもりだ」
「でも………」
その国と家を捨てたのはデービス様だ。私は少し心配になる。デービス様が戻る事で、また実家の義母とトラブルになるのではないか……と。
「大丈夫。実家には近寄らない。別に亡命した訳じゃないし、もう実家は弟が継いでいる。僕はあの家とは関係ない人間だよ。……でも、父は父だ。墓前に花ぐらい手向けたいと思ってね」
「そうでしたか……。デービス様がそうお決めになったのなら。気をつけて」
私にはそれが精一杯の言葉だった。
「おいおい、そんな悲痛な顔をしないでくれよ。もう済んだ事だ。僕にとっては全て過去だよ。過去に囚われていては前に進めない。きっとこれは僕にとって必要な事なんだよ。それに……そのまま僕は世界中を旅するつもりだ。今から楽しみなんだ。旅先から手紙を書くよ。君もいつか……いや、それは彼が許しそうにないな」
そう笑うデービス様の顔は晴れ晴れとしていた。
「デービス様からのお手紙、楽しみに待っています。いつか……私もデービス様の様に旅をしてみたいです。……叶うなら、ですが」
私もそう言って笑った。
本当は寂しい。もうこの図書館に来てもデービス様は居ない。そう思うと少し泣きそうになるのをグッと私は我慢して、右手を差し出した。
「この場所でデービス様に出会えて、本当に良かった。デービス様の書いた小説を楽しみにしていますね」
「僕もだ。この国を好きになれた理由に、間違いなく君の存在がある。君の様に純粋に物語を楽しんでいる人が居ると思うと、僕も頑張って本を書こうって思えるよ。君の様な人達に僕の物語を届けられるように……ってね」
そう言ってデービス様は差し出した私の右手をキュッと握って、私達は固い握手を交わす。
デービス様は最後に、
「幸せになるんだよ。君はもっと欲張りになって良いんだ」
と笑った。
3,240
お気に入りに追加
6,137
あなたにおすすめの小説

【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる